世界はおさとうでできている








 悪運に助けられたのか生き汚かっただけなのか、ユーリは土左衛門になる事なく無事ベッドの上で目が覚めた。無事というには風前の灯だったが、怪我らしい怪我が無い所がまた複雑である。
 付きっきりで看病していたフレンは喜んだものの、ユーリとしてはこれ以上彼に頼るべきではないと生来の勘が告げていた。天然とは、時として悪意ある行動よりも悪意ある結果になるのだ。それで真面目な彼を苦しめるのは本意ではない。
 というか、親友として今後絶対に同じパターンに見舞われるのだろう予想が付いたのだ。むしろ予想が付かない分避ける事が出来ず不運を残さず被ってしまう。
 それくらいならば、多少雑に扱われても先の行動が予測出来て回避出来るような人物の方が良いのではないだろうか。
 かと言ってオモチャのように遊ばれたり、完全に無関心でもそれはそれで困る。本人以外で気が利く人物が居て直ぐ様フォローが来る態勢が整っているのが一番理想なのだが……そんな都合の良い環境なんて簡単には見つからないだろう。
 だがこれ以上フレンの世話になるのも悪い、というよりもある意味怖い。どうしたものか、と悩みに悩んで放浪していた時だった。
 ぶぎゅる、と思いっきり無遠慮に後ろから踏みつけられ、ユーリは床に這いつくばる。
 このサイズになって船の人間は割合足元に気を付けてくれていたのと、気にしなさそうな子供達は先に五月蝿い足音が聞こえてくるので避けられていた為こうやって踏まれたのは初めてだ。
 当然ながら通常サイズの人間の重さにユーリは耐えられない。折角水死体を免れたのに今度は轢死体かよと己の悪運を呪った所、天の声が助けに入って九死に一生を得た。

「ルーク! ユーリを踏んでるぞ!」
「は? 何、足元見てなかったわ……うわっなんだよこいつ! なんで地べたに落ちてるんだ?」
「落ちてねーよ普通に立ってただろーが」

 考え事をしていて背後の気配に気付かなかった。それとは別で、まるでゴミが落ちているような言い方のルークにささくれだった心のユーリには結構にイラッと来るものがある。
 どうやらガイが気が付き注意してくれたようで、すぐに足は退けられたが後一秒遅かったらぺしゃんこになっていたかと思うとゾッとしない。
 最初の頃のように意地悪くネチネチと文句を付けるが誰の肩にも乗っていなければ、小人の声なんて届かないのだ。ああなんて不便なんだろうか。
 苛々が募ってきたユーリをぐわっと掴み、急上昇で持ち上げるルーク。通常サイズの倍率で言えば建物を一気に駆け昇るようなもので、体には結構な負担が掛かる。
 が、全く気にもしていないむしろ胡散臭そうなまるで虫を見るような半眼が目の前に。

「こーいうのはちゃんとしまっとけよ。踏んで変なのが靴に付いたらどーしてくれんだよ!」
「このクソぼん元に戻ったら覚えてろよ……」
「ま、まぁまぁ。それにしても本当にこんな所で一人どうしたんだ? 確かフレンと一緒に居たんだろう?」
「なんだよ迷子か? だっせーの」
「自分から出て来たんだよ。お供を着けなきゃなんにも出来ないお坊ちゃんと一緒にしないでくれるか?」
「んだとぉ!?」
「おいおい、今のユーリのサイズじゃ一人は危険だろ? 何かあったのか?」

 本当にルークは側で誰かがフォローしなければ言動の時点でトラブルを起こしそうな性格だ。苛々したユーリは半分責める調子で、今までの苦労を語った。
 ガイは同情してくれているが、対してルークは本気でどうでもよさそうな表情である。今度ハロルドが小さくなる薬を作ったら、絶対にルークに飲ませてやろうとひっそりと誓った。

「でもよーお前、一人じゃなーんも出来ねーじゃん。さっきみたいに誰かに踏まれるのがオチだぜ」
「ああ、オレも踏まれたのはお坊ちゃんが初めてだぜ。この船に足元も見ない注意力散漫な奴がいるとは思ってもみなかったもんでな」
「なんだとテメー!? こーんなチビっこいのが足元にいるなんて思わねーだろフツー!」
「だからそれが迂闊なんだっつってるだろ? 外で糞でも踏んで、船内に戻ったりすんじゃねーぞ」
「誰がするか誰が! あームカツクこのっ!」
「うおっ!?」
「待て待て待てルーク! ユーリはミュウじゃないんだ、投げたら大変な事になる!」
「あ、そっか。つい何時もの調子で床に叩きつける所だったぜ」
「お前サラッと怖い事するなよ!?」

 掴まれたままいきなり振りかぶり、天井から冷たい金属の床が見えたので一瞬ぺちゃんこを覚悟したが、ここでもガイが既の所で止めてくれた。この数分間で何度命を助けられただろう、仏か。
 それにしても怒ればサイズ関係無しに叩きつけるのがルークにとっての常識とは、恐ろしい奴である。幼く未熟な精神だが中身はそれなりに優しい人間だと思っていたのに、とんだサディステックモンスターだ。
 ガイのはからいでライマの自室に案内される事になった。どうせ今の所足も無し、誰かの肩という乗り物が必要なのは変わらないのでユーリはそのまま大人しく連れて行かれる事にする。
 精一杯の抵抗として、ルークの手を拒みガイの肩を借りてだが。あんな危険なアダルトチルドレン冗談じゃないぜ、という気持ちだ。
 まだテッドの方が精神年齢は上なんじゃないだろうか。こんな時ラピードがいれば安心して任せられるのに、と不意にホームシックになってしまった。

「ペットの世話も出来ねーのかよ、お前の周りってロクな奴いねーんだな」
「おっさんはどうでもいいけどそれ以外はただの不運だ、おっさんは許されねーけど。それにロクでもなさじゃお坊ちゃんだってイイトコ勝負だろうが。あとペットと一緒にするな」
「ふざけんなよ人形遊びとか女子供のやるモンだし、女目当てでチャラチャラするなんてダッセー事するかよ! それに毎日毎日依頼で出かけるとか面倒臭いじゃん。第一なんで俺がどっかの誰かの頼みなんざ聞かなきゃなんないんだ? それなら最低限そっちから出向いて、お願いしますルーク様って頭下げるのが筋だろ」
「ルーク、その言い方は自慢になってないぞ……」

 気遣いの紳士ガイが必死のフォローをしようとするが、ルークは言動からしてアレなので最早無駄ではなかろうか。
 だが、今のユーリにとってはそんなルークのニートかつ自堕落で無駄に自尊心の高い性格が、天の使いのように感じられた。というか思わず口にしてしまい、本人に思いっきり怪訝な顔で反応される。
 普段のユーリならば聞いた瞬間無視するか小突き回すかだが、今求める人材としては彼を置いて他に無い程ピッタリなのだ。
 設立してメンバーも増えてきたギルド・アドリビトムにおいて、未だに堂々と部屋に引き篭もり気が向いた時にしか依頼に出ないルークの話はちょっとばかり有名だ。
 王族だからという名目を使うには、この船にはあまりにも人格者な王族が在籍し過ぎている。先程の言動からして完全に本人の性格だろう。
 今のユーリにとっては働き者の肩は少々疲れる。あまりキビキビ動かず、外にも出ず、ベッドやソファでのんびりするような人間の方が移動時の負荷が無くて助かるのだ。
 その点に置いてもルークは部屋に帰れば速攻ソファにドカッと座り、だらしなく隙だらけに肩肘着いて、ガイが用意したおやつのプリンをガイに食べさせている。すごい、一目見て駄目人間の完成形だ。
 ユーリの目の前には同じようにプリンがどーんと用意されており、実の所この大きさにちょっと感動していたりもする。ぱくりと食べれば優しい味わいで滑らかな口当たり。手作りのようで、ガイの腕の確かさを感じられた。
 おまけにガイの手元にはプリンは無く紅茶だけ。おそらく自分の分を客人であるユーリに譲ったのだろう、なんて気遣いの紳士だ。前々からガイの評判は船内でも良いものだったが、成程これは納得する。
 こんなにも気が利く人間が何故ルークの側にいるのか、むしろそちらの方が不思議なくらいだ。ルークがアレだからガイの気が利くのか、それともガイの気が利き過ぎてルークがアレなのか。因果関係の解明が待たれる所である。
 ユーリにとってそんなガイの存在も、都合が良い点だ。基本的に怠け者で動かず、行動の予想がし易いルークに、細部まで目が届くガイがいるのならばこれ程の理想郷はない。
 この場合重要なのはルークではなくガイだが、どうやらガイはルークの付属物のようなので攻め落とすならばやはり主からだろうか。
 彼に頭を下げるのは正直かなり嫌だが、背に腹は代えられない。もしルークが駄目ならばいっそ本当にペットの真似事で格子の中に居た方が安全だろう。
 そう、これはあくまでも己の為。本心としてはこの自堕落王子様に頼るなんて嫌だが、オプションが快適理想過ぎて他に無いのだ。
 そう決意して、ユーリはルークに自分の世話をしてみないか、と持ちかけてみた。反応はというと予想出来た事だが、思いっきりしかめっ面である。

「いいじゃないかルーク、せっかく頼ってきてるんだし」
「いやなんつーか、全然誠意が感じられねーっつーかむしろ逆にムカついてくるんだけど」
「マジでお坊ちゃんしかいないんだ、頼む!」

 本心として本当にルークしかいないと思っているのは事実だ。ユーリは限定スイーツを目の前にした時以上に真剣に頼み手を合わせる。しかし普段鈍感そうなのに、こんな時はやたらと敏感に看過して疑いの霧は晴れそうにない。
 困り果てたユーリはちらりと横目で、お目当てであるお坊ちゃま専用介護士に助けを求めた。
 ガイは苦笑してポリポリと頬を掻き、なんとか説得を試みてくれる。正直ルークを通さなくてもガイに世話になればいいのではないかという気もするが、彼は結構忙しそうに船内を歩く姿を見かけているので少々心苦しい。
 その点部屋警備員をやっているルークの肩ならば全く心も傷まないのだからお互い良い事ずくめではないだろうか。

「なーんか全ッ然誠意ってモンが感じられないんだよなこいつ……」
「そんな事ねーって、見ての通り心の底からルークしかいねぇと思ってるんだぜ。他に同じ条件を探そうとしたって少なくともこの船の中じゃ絶対見つからないだろうよ。みんな依頼で忙しいしな」
「あぁん!? 俺は暇そうにしてるって言うのかよ!」
「まぁ落ち着けってルーク。暇してるのは確かだし、いいじゃないか。実家でもミュウがいたんだし、似たようなものだろ」
「え〜けどよぉ」
「頼む! あんた以外頼れないんだ!」

 面倒を見てもらっても心が全く傷まないという点で、とは流石に口に出さなかったが。ここまで必死に頼んでもルークは中々頷かず、これは普段の相性が響いているなと痛感する。そりゃまぁ貴族のお坊ちゃんとユーリとではしょうがないとはいえ。
 これはもう自分の言葉では説得できなさそうなので、後はガイに託すしかない。そう懇願の瞳で見れば、彼はしょうがないぁと笑っていた。

「なぁルーク、以前ヴァン総長がな、ミュウの世話をするお前を褒めてたんだぞ」
「え! 師匠が!? マジで!」
「ああ、乱暴に扱っててもミュウがあれだけお前を慕っているんだから、見えない所でよく世話をしているんだろうってな。ユーリも困ってるみたいだし、これは良いチャンスじゃないのか」
「なんだよもーそんなのもっと早く言えよ馬鹿野郎! よしユーリ俺に任せろ!」
「手の平返すのはっやいな!」

 清々しい程の手の平返しっぷりで、ルークは全く考えもせず引き受けた。彼の中でヴァン・グランツが絶対の存在になっているのは前々から見て取れたが、これではむしろ信者と言った方が正しいような気がする。確かにユーリから見てもヴァンは相当な達人で立派な武人だが、無条件に信じ過ぎるのも危うく見えた。
 まぁ危ないと言えばジェイドもいるのだから毒を食らわば皿まで、と言った所かもしれない。決して悪い意味ではないが良い意味でも無いのは言うに及ばず。
 何にしろ話が纏まったのは願ってもない事実。ユーリはまた余計な事を言って怒らせないよう、ぴょこんと飛び跳ねルークの肩に飛び乗った。思った通り、白い襟や長髪が掴みやすくて足場が安定している。ものぐさな彼はいきなり動かないという点もポイントが高い。

「ま、大抵の事は自分でなんとかするからよ。移動とかは頼むぜお坊ちゃん」
「いきなり我が物顔で肩に乗ってくるんじゃねーよ! しゃーねーな、とりあえずは世話してやるから感謝しろよ」
「してるしてる」

 頼むぜガイ、と口には出さず振り向いて真のお世話係に熱い視線を送る。実際寝床や風呂等の基本的な生活は、あの改造されまくったミニチュアハウスがあるので問題無い。食事は食堂に行けばロックスが専用の物を用意してくれるし、流石に置いていかれたりはしないだろう。多分。
 出歩けなくて暇になるかもしれないが、下手に動きまわって踏み潰されるのもお断りしたいのでこればかりは我慢するしかない。何しろ今の体では人間の時では散歩程度だった距離が、世界を股にかけた大冒険になってしまうのだから。
 踏まれるだけならばまだしも、虫やネズミに齧られたり小さな隙間に落ちて誰にも気が付かれず干からびるのだけは絶対に避けたい。床のちょっとしたデコボコでも、今のユーリにとっては結構な大穴なのだ。
 何だかんだとハロルドが解毒剤を作っているだろうし、その間は極力大人しくしておいた方が良いだろう。今までの経験からの教訓だ。

 そんなお互いの打算で見事にデコとボコな飼い主とペット……もとい、ルークの肩を間借りするユーリの生活が始まった。
 当初それを聞いた周囲は、ルークが世話なんてするはずは無いが近くにガイやティアがいるから大丈夫だろう、としっかりユーリの思惑を察して特に止める事も無く。
 だがこの時はまだ、ユーリは知らなかったのだ。ルークの肩で生活するという事が、下手な冒険よりも危険だという事が。
 元々普段からライマ関係とは接する事が無かったので、ルークや彼らがどんな性格でどんな生活を送っているなんて、ユーリが分かるはずも無かった。
 まず、怠惰なルークの行動ならば予測出来ると高をくくっていた点だが、その考えは最初から甘かったらしい。
 確かに彼は基本外に出かけないしソファでゴロゴロしている。予備動作が大きくて立ち上がるなと思えばさっと肩に戻って足場を固定するなんて事は簡単だった。
 が、普段の動作がのっそりしているので時々思い付きで動く手足に反応するのがすっかり遅れてしまう。勿論サイズからの死角が増えたという要因も大きい。フレンはそういった事も気を付けて動いてくれていた為、存在を忘れているんじゃないかというくらい自由なルークの突発さに付いて行けなかった。
 危険だからとソファから離れていれば、ルークはユーリを忘れて一人さっさと出て行ってしまうのであまり離れる訳にもいかない。だが近すぎると暇だー! と急に暴れだして降ってくる拳の直撃を受ける。特にユーリがポケットに入ったまま、ルークが突如ベッドダイブからのゴロゴロをした時は圧迫死するかと思った。
 ガイやティアがいる時は気を付けて見てくれているのだが、彼らは案外そこまでルークにべったりではなく、想像していたより放っておかれる時間の方が長かった。
 暇だからどこかに出かければいいのに、と思うがルークはあまり自分から外に出ない。クレスやロイドが声を掛ければ嬉しそうな顔で嫌そうに返事をするクセに。
 もしかして人見知りなのだろうか。ものぐさと人見知りが合わさって引き篭もりになっている感じかもしれない、中々面倒である。
 王子という身分が受け身にさせているようだが、本人改善する気はゼロのようでよくよくソファやベッドでゴロゴロしていた。そしてその癇癪を一番近いユーリにぶつけてくるのだ。
 それ以外にも誘われて珍しく依頼に出た時、最初ユーリはポケットに避難していたがすぐにその場所は肩よりも危険地帯だと察した。何しろルークはユーリの存在を本当に気にかけないので、走り回って大立ち回りをするわ、石や小枝を直撃させるわ散々だったのだ。
 直ぐ様学習したユーリは道具袋へと避難場所を変更したが、当然ルークから苦しくないか? なんて気遣いの言葉がかかる訳も無い。むしろグミよこせよ、と道具係にされる始末。こいつに優しさは無いのだろうか、とユーリはちょっとばかりライマの将来を案じてしまった。
 あんまりにも乱雑に扱われるので、もうちょっとなんとかならないかと直談判を試みた事もある。期待は出来ないが、実家でペットを飼っていたならばもう少しそれなりに、小動物の扱い方があるだろうと。おそらく本人何もせず、ガイやメイド達が大部分の世話をしていたのだろうと予測は出来たが。
 するとルークは、悪いとも思わずむしろぶすくれて唇を尖らせた。

「だってよーお前ちびっこいから目に入らねーんだよな」
「んなのこのサイズ考えりゃ当然だろ。それともなんだ? お前さんが家で飼ってたっていうペットはそんなにも図体でかいのかよ」
「いや今のユーリよりちょっとでかいくらいかな。けど空飛んでたし、ですのーって纏わり付いてうざかったし、火ぃ噴くから寒い時とか便利だったし」
「そんなペットはいないだろ」
「ペットっつーか便利道具みたいな? 岩で道が塞がってたらぶつかって粉砕させたり、掴まれば空も飛べたぜ」
「いやそれ魔物なんじゃないのか」
「ちげーよ! ブタザルだって言ってるだろ!」
「どっちだよもう意味分かんねーな」
「お前ブタザルより地味だし使えねーから忘れちまうんだよ、俺は悪くねぇ存在感の無いテメーが悪い!」
「オレはそんな大道芸人みたいな人生歩むつもりないからな」

 そりゃあ相棒であるラピードだって、人間の言葉を理解するし剣を咥えて戦うハイスペック犬でちょっぴり自慢に思っている所もある。が、ルークの言うブタだかサルだか分からないペットはもはや動物の範囲を超えているのでは。
 ガイから聞いた話では、そのブタザルが大変にルークを慕っているそうだが……刷り込みでもしたんじゃないのか。とりあえずルークからは特に可愛がっている様子も無く、便利道具扱いなのは涙を誘う。
 そんなこんなで日常大変だが、ユーリは住処を変更する気は無い。子供を相手にするのは骨が折れるが、それを補って余りある対価があるからだ。

「ルークと一緒だと苦労するだろ? ほら、今日のデザートはチョコレートケーキだ」
「美味い巨大スイーツが毎日出てくるならそれだけでお釣りが来るからな、気にしねぇよ。だから明日はフルーツタルトで頼む」
「毎日毎日俺のデザートを一緒に食いやがっておめー図々しいんだよ! ガイも毎日持って来なくていいって言ってるだろ!?」
「まぁまぁ、これくらいいいじゃないか。ユーリのサイズならそこまで余分に用意しなきゃならないって訳でもないしな」
「あ〜、毎日この為にお坊ちゃんの相手してやってるって感じだわ」
「なんだとテメーッ!」

 毎日ガイやティアが、気を利かせてかユーリの分も一緒にスイーツを出してくれるのだ。自分で作らなくても美味いスイーツが出てくるなんて最高の環境じゃないか。しかもサイズ的にかなりでかい。夢のようである。
 時々ティアがじっとりとした恍惚の瞳で見てきて背中が重かったり、ガイが喜々としてミニチュアハウスを改造するので更に機械化が進み家と言うより宇宙船になってきたりと……他にも細かく面倒が多くてフレンの肩に住んでいた時がどれだけ楽だったか思い知る程だが。
 しかし楽ではあったが楽園ではない。ユーリはこの、美味しいデザートが毎日食べられるというただ一点において今の生活を許容していた。作っているのか買っているのかは知らないが、ハズレも無いのは大きい。
 自分の財布は痛まないし作る手間も無いのに、毎日こんなに良い思いが出来るのだから何故にこの位置を離れようと思うのか。最近ではルークの行動にも慣れてきて、パターンも読めるようになったので最初よりも苦労は少ない。
 住めば都、とはこの事か。
 出会った当初、ルークの事はくそ生意気な貴族のお坊ちゃんだと見ていたがそれも今は昔の話。最早ユーリの目にはルークは下町の子供達と同じように見えた。勿論、下町の子供の方が精神的に大人で気が利くし賢いと思っているが。要するに、お守り気分である。






  


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