触れずに歩く








「ぐっ、…うっ!」
「フレンッ!」

 驚異的なスピードで弾き飛ばされ、過去ボルテックス・ボトムへの道を塞いでいた大水晶に思いっきり体を打ち付ける。衝撃に体が硬直し、肺に残っていた酸素が全て出て行く。どしゃりと落ちた先はリタが破壊した大水晶の欠片達が散っており、鎧を覆っていない腹部にざくりと突き刺さった。
 痛みにかまけている暇など無い、フレンは直ぐ様顔を上げ中央に陣取るチャージトータスを剣の切っ先と共に睨みつける。ルークは危なげなく着地しており、心配そうな瞳がこちらをチラチラと窺っていた。
 過保護に庇いすぎた結果余計な危険に晒してしまったようで、自分の失敗に内心で舌打ちし、フレンは水晶の欠片から立ち上がろうとする。が、ズキリと腹に痛みが走り嫌な匂いが鼻をつく。視線の端に赤いものが見えた気がしたが、意識的に無視してつま先を蹴飛ばした。

「ルーク様ッ!」
「うおおおおっ! 襲爪雷斬ッ!」

 剣身にシルフを纏わせた属性術技を放ち、チャージトータスの全身にまばゆい雷が走る。おぞましい声を上げて苦しむ呻き声が空気を震わせ、精霊達が荒れ狂っていた。生命の輝きに集まる彼らは、燃え盛る灯火に抵抗出来ない。つい先程までルークの頬で遊んでいたルナ達だとしても、世界の仕様とも言える理ならばそれが誰でどんなものであろうと牙を向く。
 力は使う者次第。フレンは刻んだ言葉を胸に秘め、聖なる呪文を詠唱した。

「聖なる槍よ、敵を貫け――ホーリィランス!」

 周囲のマナが消費され、敵と認識したチャージトータスに向かって光が舞う。密集した光刃は幾つもの槍となり、迅速の刃で敵を貫く。物理防御が高く剣では傷ひとつ付けられなかった甲羅がビキリと嫌な音を立ててひび割れ、心の臓に届いた痛みの断末魔がビリビリと空気を震わせた。

「はぁ、ハァ……ッ!」
「おいフレン、お前大丈夫かよ!?」

 ファーストエイドでTPをほぼ使いきっていたせいで、攻撃呪文を唱えるのがギリギリになってしまったとは不覚だった。ボルテックス・トップは魔物が入ってこないと思い込み油断していたのだ、この土地自体は敵がうようよしているのに。
 ガシャンと膝を突けば途端に肺から痛みが上ってくる。汗なのか血なのか分からない濡れた感触が肌に張り付き、体をその場に縫い止めてしまう。顔を上げれば魔物が融けて消えていく光景。それを背後に慌てたルークが走り寄って来ている。
 心配かけてしまったし、余計なお世話で無駄に危険に晒してしまった。騎士失格だな、と自分の愚かさにフレンは辟易する。

「ルーク様、申し訳ありませんでした……」
「もうお前ほんっと馬鹿だよ大馬鹿野郎! 無茶な事しやがって!」
「すみません、体が勝手に動きまして」
「ああもう、いーから黙って応急処置の道具を俺に渡せ!」

 ルーク様のお手を煩わせる訳には、と言っても角の生えたルークを前にしては黙るしかない。恐る恐る懐から簡易キットを取り出し献上した。
 さっさとよこしゃいーんだよ! と乱暴に奪い取って広げるが、所持していた救急キットは必要最低限の物のみ入っている為、どこででも見かけるような長く巻かれた包帯や用意された消毒液しか見慣れていないルークでは扱える物ではない。
 どう使うのか分からないのだから聞けば良いのに、焦って保護シートをボロボロ落としたり痛み止めをふっ飛ばしたりと……フレンは止めた方が良いのだろうか、しかし自分からやろうとしている事を止めたくはないし、と迷う。
 どうせ怪我は未熟な自分の責任だ。ルークに怪我が無いのだから別に構わない。少々痛みは強くなってきたが、我慢していればその内回復術を使えるようになるので待つつもりだった。

「あ、おいちょ……お前顔色すっげー悪くなってる! うっわ血が……グミ食ってろグミ!」
「す、すみません手が震えて上手く……つ、掴めません」

 ルークに言われて、なんだかずーんと体が重くなっている事に気が付く。呼吸が短くなってきて視界にもブレを感じる。もしや魔物のトゲから毒を貰ったのか、それとも聖地ラングリーズの影響を受け過ぎているのか。分からないが、普段ではすぐに回復する気力も中々戻らなかった。折角手の平に乗せてもらったグミも、震えた手の平からポロリと零れ落ちてしまう有り様。
 なんたる無様。とフレンは己の失態を呪う。

「申し訳ありませんルーク様。私を置いて一度船にお戻りください。一晩ここで休んでいれば体力も回復するでしょうし、後から自力で戻りますので……」
「馬鹿な事言ってんじゃねーぞ、俺に命令すんなっつっただろーが! いいか黙ってろ、こんな傷なぁ、すぐに治すっ! ファーストエイドッ!」

 全身で怒りを迸るルークはその勢いのまま、やけくそに聞こえる声で何度も詠唱した。そんな荒れた感情に任せては回復魔法は上手く発動しないのだが……フレンの霞む視界には、ルークの手に光が集まっていくのが見える。
 これは一体……と思い顔を上げればルークの真剣な表情。今までのどんな時よりも強く想いが込められている呪文に、マナはきらめく反応を見せ精霊達は歓び踊っているようだ。これは確かなる前兆。今ならばもしや。
 フレンはルークの必死な指先をそっと掴み、手の平を握った。

「ファーストエイド! ファーストエイドッ! この、発動しろよ!」
「落ち着いて。命令するんじゃなくてお願いするんだ。ちょっとだけ力を貸してくれないか、ってね」
「お願い……」
「ルークだって友達の頼みなら頑張ろうと思うだろ? それと同じだよ。さぁ、深呼吸してから集中して」
「わ、かった」

 きゅっと引き締めた口元に朱色の髪がはらりと落ちる。そんな些細が気にならない程に集中させた碧の瞳。大きく吸った息で肺を膨らませた後は、風のない湖面のようだった。流石剣を嗜む者として集中させれば後は早い。ルークは繋いだままの手を、血が滲むフレンの腹部へと近付けた。

「――ファーストエイド!」
「……っ!」

 力ある言葉、発動の光。その瞬間フレンの胸に小さな火が宿る。ほわり暖かい昔を懐かしむ気持ちが充満し、充足感で胸がいっぱいになった。不思議な、初めての感覚。今まで誰の魔法を受けてもこんな気持ちになった事は無い。いいやこれは本当に魔法の効果なのだろうか?
 今分かる事はフレンの傷口からの血が止まり、気力が戻ってきているという事だけだった。
 ゆっくりと動き破れた服をめくって傷口を確認する。周囲の血はまだ乾いておらずドロリと伝い重力に従い落ちていくが、水晶の欠片で貫き引き裂かれていた皮膚は真新しく断裂した赤い跡を残して治りかけていた。
 治癒といっても完璧ではなく、傷口を閉じただけという印象。通常であれば新陳代謝を促進させ傷跡すら綺麗さっぱりなくしてしまうはず。つまりルークの回復魔法は不完全というか未熟と言うべきか。
 しかし発動した事実には違いない。嬉しくなって顔を見れば、ルークの表情は想像していた以上に喜び咲いており、むしろこっちの方が回復の効果があるのでは、とフレンは痛みを忘れて大きく笑う。

「い、今利いたか!?」
「ああ、暖かくなったよ! いっ…たた」
「馬鹿野郎動くんじゃねーよ! いいか、俺が全回復させてやるからそのまま寝てろよ!?」

 一気に表情を明るくして、ルークは興奮を露わに鼻息荒く何度もファーストエイドをかける。先程でコツを掴んだのか、今度はどれだけ唱えても発動していた。
 やはり素質と才能自体はあったのだ。緊急事態を目の前にして極限状態になり、今まで無意識にかけていた枷を外した……という辺りだろうか。それが自分の怪我とは、ある意味良かったのかもしれない。フレンは暖かい光に浸り、気を抜けば眠ってしまいそうな心地良さと戦った。
 やはりルークの回復魔法は他と違う。治癒効果は薄いがその代わり何か別の効果が発揮されているのは間違いない。考えて、これはルークの優しさなんじゃないかと思い付く。魔法学者が聞けば鼻で笑われそうだが、フレンの中では納得が付いた。
 気まぐれで我儘で意地悪な、自分勝手だけど素直なルークの優しさだ。ごく普通に人間がもつ良心も、もしかしたらこんな風に暖かく感じるのかもしれない。そう思えば一番最初にこの魔法を受けた自分が、素晴らしい幸運に恵まれたんじゃないかという気になる。いや実際そうなのでは。
 うとうと考えていると、気が付けば声が止んでいる。閉じていた瞳を開けて見ると、ルークは精神力切れを起こしゼィハァと疲れきっていた。

「ごめんよ疲れただろう、大丈夫かい?」
「ち、ちぐじょーグミ、オレンジグミよこしやがれぇ」
「訓練もしてないのに連続で使うなんて無茶だよ。僕はもう大丈夫、動けるから帰ろう」

 傷口はまだ跡が残っているが、ほぼ完治と言っていい。体力と気力も出発した当初より溢れている感覚がした。これがルークの回復魔法の効果なのかはまだ分からないが、少なくとも立ち上がれるようになったのは間違いない。
 歩いてみれば足取りも強く、盾を拾い持っても体はふらつかなかった。振り返れば逆に疲れた顔のルークが、心配そうな色を混ぜてどこか悔しそうに見える。自分のイメージではおそらくティアのように一発で完治するような回復魔法を望んでいたのだろうけれど、初めてでこれだけの効果を発揮したならば十分だ。
 まぁ本人は納得しないだろうから、しつこくは言わずフレンは帰りを促した。足を進めれば慌てて付いて来る。大丈夫なのかよ? と心配そうな瞳がくすぐったかった。少し節々が痛むが、それ以上に気力が回復している。
 庇おうとしてやられてしまった無様な姿を見せたばかりなので、少しは格好付けたいという奇妙な強がりが湧いていた。それは勿論、ライマ国王子であるルークにそんな事をさせる訳にいかないというのも理由のひとつであるが、それ以上に。

「大丈夫だよ、ルークは怪我してない?」
「……俺は、別になんともねーよ」

 敬語が取れている事に気が付いてはいるが、なんとなく流れでフレンはそのままにした。さり気なく肩を支えるルークの横顔が、ほんのり嬉しそうに見えたから。
 以前甲板で見たクレス達と一緒に笑っていた時の笑顔が、自分の前でも咲いているのが嬉しくて。


 無事バンエルティア号に帰り、ルークに強引に引っ張られてそのまま医務室へ。途中ユーリに見つかって何かを察したのだろう、ご愁傷様、と言わんばかりに肩を竦めて笑いながら見送られた。
 彼が想像するような苦労なんて無かったのだが、説明する前に引っ張られてしまったのでそのままだ。もしかしたら部屋に戻れば労りのデザートかガッツリと肉料理なんて出てくるかもしれない。
 それでは少々自分が得をし過ぎるなと考え、分けられる物ならばルークにもおすそ分けしよう。そんな取らぬ狸の皮算用を計算していると、乱暴に肩を落とされ医務室のイスに座らされていた。

「どこか怪我をしたんですか?」
「いいってアニー、俺がやる! えっと、包帯包帯……消毒液はどれだよ!?」
「ちょっとちょっと、散らかさないでおくれよ!」

 やたら張り切ったルークがアニーとナナリーの手を振り切り、処置をしようとしてくれるのは嬉しい。嬉しいのだが、大雑把に動いて探すどころか物を散らかしている。今度はガチャン! と救急箱を落として中身を盛大にばら撒いていた。
 ナナリーの表情がビキビキと恐ろしく変化している様を横から見て、魔物にくらったダメージよりも余程胃が痛くなりそうだ……とフレンは戦々恐々だ。正直もう精神力は回復しているので自分で回復魔法をかければ済む話なのだが、今のルークにそれを言っても聞き入れてもらえないだろう。
 まぁ本人善意でやっているのだしと無理矢理納得させた頃、ドガッシャアアン! と点滴スタンドをドミノの様に倒した音が聞こえた。ついでに言うとナナリーの堪忍袋の緒が切れた音も、だ。

「んだよ、あんなに怒んなくてもいーじゃねーか」
「私よりもルーク様のたんこぶの方に治療が必要になりましたね……大丈夫ですか?」

 一応でもフレンが怪我人なので、追い出されずルークの頭にデカデカと残るたんこぶひとつで許された。アニーとナナリーはこれ以上見ていると次は雷を落としかねないから、と医務室を出て行く事にしたらしい。ルークが自分なりに治療しようとした心意気は買ってくれたようだ。
 機材や物は絶対に壊さないようにと予め救急箱を出して行ってくれた為、残る被害はフレンだけになる予定である。今の所包帯をぐるぐる巻にされてミイラ化しているだけなので、にこにこと笑顔で済ましているが。
 しかしフレンの胴体を包帯でサイズアップさせてもまだ巻くらしい予定の、ルークの手は突然ぴたりと止まってしまう。何か不敬を言ってしまっただろうか? と窺った顔はまたも少し赤い。もごもごと小さく呟く声は普段と違ってやけに聞き取りづらかった。

「けっ……敬語っ!」
「はい?」
「……なんでもねーよ馬鹿野郎! いいかフレン、俺が魔法使えるようになったって事は絶対絶対誰にも言うなよ!?」
「え、ですが……」
「あんなセコい効果じゃ逆に笑われちまう。もっとちゃんと使えるようになるまでは秘密にすんだよ。んで完璧になったら師匠に言うんだ!」
「そんな、あれで私は回復しましたよ。回復魔法ならアッシュ様はお使いになられませんし、十分誇れるかと思います」
「あんなもん暖かいだけじゃねーか! 絶対に言うなよアッシュには特に! ぜーったいに言うんじゃねぇ! もし誰かに漏れてたらお前のマントを特濃コーヒー漬けに染色してやるからな!」
「そ、それは困りますね……ですが心配なさらずとも、私の口からは何があっても漏らしません。お約束します」
「ちょっとでもだぞ、大罪人に言うのもナシだかんな!?」
「はい!」
「よし、じゃあ……ゆ、指切りだ。げんまんってやつ。嘘ついたらマジで針飲ませるからな」
「私はそんなに信用が無いのでしょうか……」
「いいから早くしろっ!」

 目を尖らせたルークが小指を立たせた手をずずいっと突き出して来る。真面目正直に生きてきたつもりなのだが、こうまで念押しされては落ち込むというか、ルークにとって自分がどれだけ頼りないと思われていたのかがショックだ。確かにヴァン・グランツと比べてはどうしようもないかもしれないが。
 邪魔する包帯を取ってフレンは手甲を脱ぐ。そういえば手甲の上から包帯を巻く意味はあったのだろうか、と疑問に思ったが口にすればまた怒らせるだろうから閉じておいた。
 自分が座っておりルークは立っている。指切りをする為に手を伸ばせば、自然と見えた顔は緊張気味に赤い。じっと指先を見て息すら止めていた。
 帰ってきて時間も経ち、体力や精神力も回復しているので緊張状態に入る事は無いはず。違和感を感じ取ってフレンはゆっくり立ち上がり、失礼しますと声をかけて、交わるはずだった指先を首筋へと予定変更した。

「ルーク様、体温が上がっていますね。脈も少し早い。もしやどこか怪我をされましたか? それとも魔法の使い過ぎで疲労が溜まっているとか……」

 自分が連れ出して何かあったら大変だ、それこそアッシュ達に申し訳が立たない。考えうる全ての可能性をブツブツと呟き吐き出していたら、ふとルークの瞳にぶち当たった。
 普段細く狭められた瞼は開ききり、若い翡翠色が部屋の電灯に反射してきらきらと潤んでいる。こんな真正面から顔を見たのは初めてで、ああ眉やまつ毛も朱色なんだなぁと、場違いな感動を抱く。頬は髪色を写し撮っているんじゃないかと思うくらい血色が良く、怪我をした様子はどこにも無さそう。
 しかし確かに、フレンの指先から伝わる脈はどくどくと大暴れしており、焼けるように熱い皮膚を伝えてくる。
 そしてわなわなと震えたくちびるが何かを言いたげにしているものだからそれをじっと待っていると、ルークの狼狽えた怒鳴り声が聞こえたのは奇妙な間を経てからようやくの事だった。

「わ、わーっわーっ! いっきなり何しやがるばかやろう!」
「あ、すみません……。お顔が赤いのが気になって」
「よ、よ、よっ余計なお世話だ! なんもなってねーよ!」
「ですが今日は色々ありましたし、早めにお休みになられ方が良いかと……」
「こんな真っ昼間から寝てられるかよ! ったくなんだよ、またヒールするのかと思ったじゃねーか」
「TPも回復しましたし、かけましょうか?」
「嫌味かテメーは! もういい!」

 何故か突然怒りだしたルークは顔中を真っ赤に茹で上げ、手近の包帯を投げ付けてくる。柔らかいので痛くはないが視界が白で埋まってしまい、その間に扉が閉まる音が聞こえた。絡まる包帯を慌てて取り除けばもう医務室にはフレンひとりきり。
 しまった、よく分からないが怒らせたらしい。折角ルークが初めて魔法を使えた記念すべきめでたい日だったのに。追いかけようとして走るが、足甲の隙間に上手く絡まった包帯が足を絡め取り、これこそ無様にフレンはすっ転ぶ。
 咄嗟に着いた手は運悪く机上のトレイを捉えており、がしゃあん! と思い切り良くぶちまけてしまった。いけない拾わないとナナリーに怒られる。しかしルークを追わなければ、ああしかし放っておく訳にも……と、勝手にひとりてんやわんやと踊る事になってしまった。

 色々考えたがあのままにしておくのは性格的に落ち着かないし、怒られるのは自分だけでなくルークにまで及んでしまうかもしれない。そう考えたらやはり先に片付けるしかない。
 ルークが処置してくれた大量の包帯を巻き直し、部屋を片付けてから廊下に出ればもう静かなもの。すぐ傍のガルバンゾ部屋を訪ねるも、どうやら誰もいないようだ。
 今日一日、上手くいかなかったようないったような、結局どうだったのだろう。いまいち後味がスッキリしない。ルークが魔法を使えるようになった結果は喜ぶべき事だ。しかし何故あんなにも怒っていたのかがよく分からなかった。
 あんな時ユーリならばよく人を見て読むのだろう、きっと怒らす事はあるまい。相談してみようにも秘密だと硬く指切りまでしたのだから、自分で考えるしかない。
 そういえば結局指先が交わる事が無かった。思い及んでじっと己の小指を見つめてみれば、なんだか勿体無いないとじんわり。何を不敬な、と頭の隅では言うものの、子供っぽく約束を乞うルークの姿が離れない。
 エステルにもよくよく、この船では友人のように接してくれと願われていた。しかしそんな簡単に出来るような性格ではない。硬い態度を取るたびに、少し残念そうな表情をさせるのが心苦しかった。もしかしてルークもエステルと同じ気持ちで、指切りをねだったのかもしれない。
 もやもやと自分の不出来さが発覚し、またも本格的に落ち込もうとした時だった。少し先の扉が開き、見覚えのある軍服姿が顔を出す。すぐにこちらに気が付いたジェイドは人の悪い笑顔と明るい声色で、まるで今あった出来事なんて全てお見通しだ、なんて態度だった。

「おやおや、子守ご苦労様でした」
「子守だなんて……そんなつもりありません」
「ルークに関しては子守のつもりでいた方が良いですよ。あまり深く考えても無意味ですから」
「それは……どういう意味でしょうか」

 ジェイド程の人間を相手に歯向かう気なんて無いが、今の言葉はフレンの胸に引っかかる。ルークはルークなりに王位の立場を悩み動こうとした、そして見事結果を出したではないか。それを無意味と言ってのける事に、反感を覚えたのだ。

「単純で素直そうに見えても奥底では案外企んでいるんですよ、子供というものは。ですがその目的も結局は自分の欲望に従っているだけです。それに付き合っていてはキリがない」
「それは、……ルーク様の事を言っているんですか。あの方は確かに幼い部分もありますが、言えば分かってくださる懐の深さもあります。ジェイド大佐はルーク様を子供扱いされておられますが、あの方なりにちゃんとご自分の事を考えておられました」
「モノは言いようですねぇ。貴方がそう思うのは勝手ですが、あの子はそこまで深く考えている訳ではないと思いますよ、私は」
「そんな事はありません。でなければ私に魔法を教えろと言う訳が……!」
「だから、でしょう?」
「え?」
「魔法を教えろ、と言って誰よりもまず一番最初に、貴方に言いに来たのが何よりの証拠じゃないですか」
「は、……え? どういう事、でしょうか」

 何もかも、全て分かったような憎たらしい笑顔でジェイドはキッパリと。

「つまりはそういう事ですよ」

 反論出来ないくらいに力強く言い切って、くるりと背中を見せて廊下を出て行ってしまった。
 ジェイドの言葉は説明になっていない。のに、何故か不思議な説得力があって言い返す事も言い縋る事も出来なかった。何しろそれは、フレンも最初から疑問に思っていた大きなひとつ。
 どうして魔法を使いたいと言って、他国の、ただの騎士である自分の所に来たのか。初めは単に、身内にバレては恥ずかしいからだと思っていた。しかしジェイドにはバレバレのようであるし。アッシュにさえバレなければ良いのだろうか? だがルークの性格で隠し通せるとは正直思えない。
 廊下にひとり取り残されたフレンは、結局ジェイドの言葉の意味もルークの真意もさっぱりちっともまったくもって分からず、ぽかんと立ち尽くすのみだった。








青狗様、リクエストありがとうございました
このサイト、ユリルクばっかりですがあくまでもルーク中心ですので
フレルクはネタ出し(という名の妄想)時点ではちょこちょこあったりします
というかユーリさんを書いてると自然に出てくるので……なんというか個人観なんですがフレルクとユリルクは同じ位置にいるんですよね
むしろあのふたり表裏だし?もうこれは自然の摂理というか?みたいな?
ユリフレルクさいこーじゃないですか、ねぇ?
ちなみに私はユリフレでもなくフレユリでもなく、下町は家族派ですむしろべっぺりあメンバー全員家族ほのぼの派ですシンフォニア的な
あっおっさんは怪しい親戚でお願いします
いやちょっと待ってください
じゃあアビスメンバーは家族じゃないのかと言われるとそんな事はないと言わざるを得ない
そりゃ原作の長髪時点ではアッハッハと笑い飛ばすレベルですけど!そこは否定しない!
けどほらストーリーを進めていくと、深まっていくメンバーの絆が分かるじゃないですか
具体的に言うと戦闘終了後掛け合いのナタリアとティアとアニスの仲が変化していくやつです
あれ大好きなんですよね私
え、男性陣の仲……?さて何の事言ってるかさっぱり分かりませんねぇ
マイソロなら長髪でも家族でいいじゃないアッシュも一緒だよ!どう考えても手のかかる長髪を中心としたドタバタ物だけど!

フレルクの後書きのはずなのにアビスの事になっていましたすみません
ユリルクとの差として、お話を書くにあたり魔法ネタを使おう、と考えたんですけれども
ファンタジー世界が大好きなので、あれもこれもと漫画やゲームから妖精だの魔法だのの設定をもしゃもしゃしてたらよく分からない事になりました
最たる原因はアンジェリークの守護聖様……あっなんでもありません
(ここで指輪物語とか言わない分かりやすいライトおたく)
でもAの原作的にはルークも魔法使えてもいいんじゃない?と思って
マイソロ世界だけど!勇気は夢を叶える魔法!
それにしても書いてて思ったんですけど、フレルクって外野からの茶々入れが無いと一生発展しそうにないなと思いました
真面目くん×お子様の……こう、純朴さ!ほのぼので良いんだけども
闇堕ちフレルクですか?大好物です!

ありがとうございました






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