なかよくけんかしな








「……貴様には反省という言葉が無いのか」
「いいから、ちょっとこれ見てろよ、な!」

 予想していた通り、翌日いつもの個室に来てみればロック解除の機械が扉に取り付けられており、中に入れば自信満々に馬鹿面したルークが無駄に興奮して出迎えた。はあぁ、と呆れと諦めの溜め息。ほれ見た事か、こいつの辞書には反省という文字が存在しないのだ。いくら怒って怒鳴ってもこちらが疲れるだけ、怒り損である。いっそ猛省して大人しくしていればどれだけ助かるやら。
 入り口ど真ん前で邪魔をするので、蹴りつけて室内に入り椅子に座る。微妙に生温くて、先程までここに座って待っていたのだろう。足をプラプラさせて行儀悪くしている情景が無駄に思い浮かんだ。机の上を見ればメモ帳に落書きが。特徴的な文字でアッシュの怒りん坊ハゲるぞ、と書いてあるので犯人は推理するまでも無い。後で〆る。一体何時から入り込んだのか、そんな事をしている暇があるならば勉強でもしろとまた怒鳴りたくなってきた。
 しかし当の本人は馬鹿そうな馬鹿面でうきうきと、不穏なオーラを振りまく剣を手にしているではないか。それに先日の恐怖を思い出し、アッシュは慌てて立ち上がる。

「おい待て、貴様何するつもりだ!」
「いいから、ちゃんと座っとけって!」
「待て待て待て、やるなら外で……というかわざわざ俺の目の前でやろうとするんじゃねぇ! おい聞いてるのか貴様ぁ!」
「いくぞー、ほらよっ!」
「……っ!?」

 こちらの静止を腹立たしい程無視し、ルークは剣を天井高く放り投げた。くるくるくる、と緩いスピードで回転する剣は弧を描き、真下に落ちてパシッ! と軽い音で持ち主の元に帰って来る。実に鮮やかな動きで素早い。一瞬の事でアッシュは何が起こったのかよく分からなかった。
 ぽかんと口を開けていると、ルークはニヤーっと笑い剣舞を始める。昔にヴァンから教わり、今でもきちんと繰り返している動作は美しい。滅多にないルークの努力が垣間見える剣舞は、案外評判が良かったりする。基本ルークに関して褒める事の無いアッシュも、これくらいは多少マシだな、と言ってやっても良いと思うくらいだ。
 狭い個室内なのに、それを感じさせない優美さは目を奪う。普段大雑把なルークの動きが雄大に見え、風を切る髪の尻尾が金糸を描いている。以前にアッシュが見たのはどれ程前だったろうか。成長と共に雑味が消え、力強いしなやかさが加わっていた。
 そして最後、締めくくりは目前で剣をピタリと止めるはず。だがルークの左手は勢いを付け、ぶん! とまたも剣を天へと放り投げた。しゅるるる、と空気が切り裂く音。使い手の視線は動かずアッシュを見ている。タイミングが悪ければみっともなく剣は床に転がるし、最悪腕か足を刺すかもしれない。だがアッシュの心中、失敗するなんて欠片も思わなかった。
 調子に乗っている時のルークは、大失敗するか大成功するかのどちらか。そして長年一緒であるアッシュには、どんな時に失敗するのか経験上よく分かっている。そして今回、失敗する要素なんて一欠片も見いだせない。絶対に格好良く決まる。これは誰がどう預言しても覆せない事実だ。

 パシッ! と一秒後。当然にその手に収まる剣。腕の揺らぎも全く見せず、演舞としても完璧。これに文句を付けられる奴がいたら、それこそアッシュの剣の味を思い知らせてやる所である。

「……フン、やるじゃねぇか」
「へへっ、だろだろ!」

 褒める所しか見当たらないので、素直に褒めてやればルークは嬉しそうに破顔した。以前に追い出して1週間も経っていないと思うのだが、どうやらその間中練習していたらしい。その力の入れようを他にも発揮しろ、と小言を付け加えたくなったが今回は黙っておく事にした。成功の喜びを噛み締めている最中に水を差すのも悪いだろう、という気分にもなる。

「いや〜でも失敗しなくて良かったぜ! なにせ練習で一度も成功しなくってよー」
「おい貴様、それはつまりまた俺を殺す気だったのか!?」
「成功したんだからいいじゃねーか! ほら俺って本番に強いからさ」
「そもそも前に床を刺した傷も俺が埋めて修理したんだぞ! 貴様がやった失敗を何故俺が毎回毎回尻拭いしなきゃなんねーんだよクソが!」
「怒んなよ生え際やばくなるぞ」
「誰のせいだ誰の!」

 少し褒めればこれだ。アッシュは先程の評価をぐーんと下げて、無駄にした諸々込みで怒鳴ろうとした。それに慌てたルークが宥めるポーズを取った時ふと視界に入った腕。それを見てアッシュは怒りのゲージが一瞬にして上がり下がり目まぐるしく動く。

「貴様……前より怪我を増やしてるじゃねぇかこの屑が!」
「努力の傷跡って言えよ!」

 ルークの袖から手袋まで、細かい擦り傷が多々。指先には絆創膏が幾つも。特に目立つのは右腕の包帯だった。演舞の時は体の支柱線を隠す為利き足ではない方を一歩下げる。その為右側は後ろに隠れ、視界から見えなくなるのだ。普段ならばそれでもすぐ気が付くはずなのに、アッシュは今目にするまで気が付かなかったのは失敗だ。全体の動きに意識を奪われていた、とは思いたくなくて、誤魔化しに怒鳴る。
 そういえば前にキレた時も、練習して傷だらけになった腕を見たせいなのだったと唐突に思い出す。

「この馬鹿野郎が! ド下手糞なくせに意地張ってやろうとするからだろうが!」
「んだよ、できたんだからいいじゃねーか! 第一アッシュが絶対できねーって言うもんだから俺だって意地になったんだぞ!」
「人のせいにするんじゃねぇ屑! やるならやるできっちり仕上げてから来やがれ、あからさまに練習しましたって見せつけて同情もらおうってのが浅ましいんだよ!」
「なんだよそれ、せっかく出来たから見せてやろうと思ってすぐ来たんだぞ!」
「練習で成功した事無いって言ってただろうが!」
「でも成功したからいいだろーが!」
「そういう問題じゃねえっ!」

 ぎゃんぎゃんと怒鳴り合っていく内についヒートアップし、アッシュの堪忍袋の緒が切れそうになった瞬間だ。それを止める為なのかどうか分からないが、抜群のタイミングでルークの腕から包帯が解けた。おそらく元々きちんと止めていなかったのだろう、それが演舞による動きで緩み、ついにはらりと落ちてしまったのだ。
 多分ルークの事だ、ひとりで練習していたに違いない。そして怪我をしても恥ずかしいからと誰にも見せず、自分で不器用に手当したのだろう。ガイやティアが見れば絶対にきちんと治療されているはず、つまり練習すら隠し通していたのか。全く馬鹿らしい。
 この超弩級で大馬鹿の性格を改めて思い出し、いい加減こちらが大人にならなければいけないとアッシュは思い出す。あの馬鹿は馬鹿で馬鹿なのだから、もうこちらが許容してやらなければ話が進まない。どうしようもない馬鹿で屑で駄目人間だが、将来はあれがライマの王になるのは決定しているのだ。アッシュはあのスーパー馬鹿以外の影になるつもりは無い。自分が王になってもいいが、それはあのウルトラ馬鹿が王位を譲るだのと超絶馬鹿な事を言い出さない限りは考えないようにしている。もし本当に言い出したら今までの苦労を返せとぶん殴るつもりだが。
 だから、なんというか。……呆れて気が抜けた。大人になれアッシュ、この馬鹿をコントロールするのも影の努めじゃないか。それで民達が幸せに暮らせるのならば良い事だ。ルークは案外メイド達や兵士、街の民に好かれているのを知っている。といってもナタリアのように尊敬されているのではなく、どこからともなく来る世間知らずのクソ生意気な坊っちゃんとして扱われているのだが。
 国においても民においても平等なのはルークの良い所だ、ガイが言っていた事を同意したくはないが多少は認めている。考え無しなのは問題だが周囲のサポートが無駄に厚いのだからどうとでもなる程度だ。
 17年間重ねた経験の元、ついにアッシュは悟りを開いた。どすんと椅子に座り、特大の溜め息を吐いてから手を出す。

「包帯も自分で巻けないのかよ、この馬鹿が。巻き直してやるから腕を出せ」
「だってよー、ひとりで巻くのって難しいだろ」
「そもそも怪我するような失敗してんじゃねぇ」
「アッシュはほんとうっせーなー」

 唇を尖らせ心の底からウザそうに言うが、すぐに小生意気に笑うものだからアッシュは我慢してやった。相手は精神年齢7歳児だ、常識や筋を求めても無意味だという事はいい加減分かりきっている。何だかんだ言って大人しく手を差し出してくるのだから、良く言えば信頼されているのだろう。
 アッシュは机の引き出しから備え付けの救急箱を取り出し、ルークの手袋を脱がしてまだ新しい傷口を消毒し、ヨレヨレのテーピングを剥がしては綺麗に貼り直していった。近くで見れば細かい傷も幾つか作っているし、爪が少々欠けている。これは爪切りをしているガイ辺りは発狂しそうだが、そもそも爪切りくらい自分でやれと言いたい。
 浅い傷は消毒だけ、他は絆創膏とテキパキ処置すればルークの腕はあっという間に肌色が少なくなった。やはり剣を持つ左手の傷が多いが、思ったより深いものは無い。腐っても剣士、勉強をサボっても修行はサボらない日々のおかげで最低限の怪我で済んだのだろう。
 そして何となく無言になってしまった。普段うるさいくらいのルークは珍しくじーっと静かに口を閉じ、槍でも降るんじゃないかと思ってしまう。そういえばルークに触れたのなんて久方ぶりだ、と頭に浮かんだせいでアッシュは何故か焦ってきた。
 かなり昔は同じベッドで寝ていたが、早すぎるアッシュの自立により早々に部屋が別れたのだ。当時のルークは鼻水を垂らして一緒に寝ろよ、と突然夜中に襲撃を何度も何度もしてきたのを思い出す。鍵をかけても窓から入ってくるし、窓に鍵をすれば真夜中関係無く扉を叩いて泣き喚くし。結局渋々一緒に寝てやったが、ガイが来てからガイと一緒に寝るようになってあっさり来なくなった。正直あの時はちょっとだけムカついた、と今蘇る。
 いやそんな事関係無いだろうが。無駄に浮かび上がってくる思い出を防ぐ為、アッシュの口は何か喋る事を探した。何でもいい、とりあえず今自分の動揺を誤魔化す事が出来ればどんな話題でも。そう考えて出てきたのは、つい昨日の事だった。

「あのユーリという奴は駄目だな」

 唐突な響きは自分でも意外だが、出てきてしまった以上これで進むしかない。聞いたルークは珍しくきょとんとしており、馬鹿そうな顔がますます馬鹿面になっていた。

「同じギルドメンバーであっても礼節を忘れる奴なんぞろくでもないぞ。厭味ったらしい言い方で、いちいち上からの態度がウザいな。あいつが誇れるものなんざ歳くらいしかないだろうに、無駄に偉ぶってやがる」

 アッシュはルークと違い、案外怒りが持続する方である。なので昨日からのユーリの悪印象をそのまま、ナタリアや他の者に吐き出すなんて出来る訳もないのでそのまま持ち越していた。ガイやヴァン相手にもこういった事は基本的に言わない、心のどこかで格好付けたいという気持ちが多いからだ。
 自分に被害を被らない限り、悪辣に他人を評価する事は無いのだが……どうにも昨日のたった一幕でユーリに対する心象が最悪になっている。どこが気に入らないのかはよく分からないが、印象として気に入らない、と率直に感じた。おそらくあの何か訳知り顔で余裕そうな言い方をされたのが癇に障ったのだろう。
 止まってしまうとまた奇妙に焦ってしまうと考え、ついアッシュの口からはユーリの悪口が止まらない。しかしそこまで交流が無い同士なので言えるなんて精々上辺のみ。だが時間を誤魔化すならばその程度で十分だった。
 ルークとアッシュは人の好みも実は似ている。自分よりも船内をブラつくルークならば、アッシュよりも先にユーリと顔を合わせている可能性が高い。もしそうならば絶対にふたりは相容れない、相性最悪だと想像出来る。特にルークは自分が上の立場であった事が常なので、上から目線で言われるのが大嫌いなのだ。許せるのは認めた人物、両親やヴァンくらい。
 だからアッシュは同調すると思っていた。そうだよなーあいつマジむかつくよな! と返って来る事を想定していたが、やってこないので顔を上げて見ればルークは大変に奇妙な顔をしている。

「あ〜、うん、まぁ。あのクソやろーな。うん、……まぁ俺も好きじゃねーけどさ」
「? どうした。お前もあの手のタイプは嫌いだろうが」
「嫌いだっつーの、まじうぜーし。一言多いし、俺のやる事にケチばっかりつけるし、カッコつけだし、男のくせに女みたいに甘いもの好きだし」
「リオンの前では言わん方がいいぞ」
「まぁその、なんつーの? 超うざくて邪魔くせーけどよ、でもあいつだって一生懸命生きてる訳だしさ。ミジンコでも生きる権利くらいはあると思うんだよな」
「そこまで言ってないぞ俺は」

 いくらなんでも人間を単細胞生物に例えるのはどうかと思う。アッシュはルークに対してミドリムシ以下だとは流石に思った事は無い。猿以下だとは何度も思ったが。それもこれも身内、双子の片割れだから下す評価だ。自分よりも知っている存在故に、必要以上に厳しく接している。
 アッシュは自分に厳しい。だからルークにも、厳しいのだ。

「その……いいじゃねーか! あの女男だって見る奴から見れば良い所くらいあんだろ! 無駄に菓子とか美味かったし!」
「菓子? そういえば誰かが菓子作りが上手いとか言っていたか……あれは誰の事だったか」
「あーもう無し無し終わり! あのくそやろーの話するとムカツクから終わりだ! そんな事よりさっさと包帯巻けよ!」
「いちいち大声出すな、うるさいぞ」

 妙に焦りだしたルークは可笑しな様子だが、確かにユーリの話は思い出すと余計に腹が立ってくるかもしれない。なのでアッシュは止まっていた手を動かし、ルークの腕に絡まっているだけの包帯を巻直そうと取った。
 それにしてもこれは巻いていたというよりも、単に端をくくっていたと言った方が正しいようなレベルだ。片手とはいえ利き腕で巻いてこれとは、ルークの不器用さはここまで深刻だっただろうか? 自分で言っておきながらアッシュは少々心配になってきた。
 無駄に長いその包帯が全て解けると、出てきたのはそれに見合った傷……ではなく、絆創膏だった。浅い傷ばかりの左腕はテープや放置ばかりだったので、包帯を巻く傷はどれ程だと思っていたのに拍子抜けだ。というか絆創膏を貼っているのならば包帯なんて必要無いのでは?

「なんだこれは? ……む」
「あっ! そ、そのっ!」

 バッ、と直ぐ様ルークは右手を引き後ろに隠してしまう。だがアッシュの目はしっかりと記憶に焼き付いている。あのどぎつい色使い、滲んだ印刷、微妙に怖いファンシーなクマプリント。何しろつい昨日見たばかり、忘れるはずもない。廊下で拾った絆創膏だった。
 ユーリが薬屋で貰ったと、医務室に寄付してもまだ余っている、と言っていた物。ルークの事だからひとりでこっそり医務室に入り込み、ひとりで適当に処置しようとしたが救急箱のある場所が分からなくて、目に入った物で簡単に済ませてしまったのだろう。そしてこんな子供が使うようなプリントの絆創膏なんて恥だ、と言って不器用に包帯を巻いて隠していた……辺りか。
 無駄に格好付けたがりなので、見ていないルークの行動をアッシュは簡単に予想出来る。これも身に付きたくなかった17年の賜物だ。どうせ焦りながら馬鹿な言い訳をするのだろう、と顔を上げれば……予想通り焦りで額いっぱいに汗をかくルークが。口元はあわあわおぼつかず、恥ずかしいのか頬が赤い。すぐこうやって表に出てしまうのは良いんだか悪いんだか、と冷静に評価した。

「ちが、これは……これしかないって言うから、俺は嫌だって言ったんだけど!」
「まぁ、捨てるには勿体無いし、いいんじゃないのか」
「そ、そーなんだよ! 捨てるよりいいよな、ゴミにするより全然良いからな!」
「ただ悪趣味であるのは間違いないな」
「……っ!」

 捨てるよりかマシではあるが、アドリビトムメンバー全員が使う医務室へ寄付するのは少々使う側の気遣いを忘れている。子供達は良いとして、リヒターやクラトスにまでこのファンシー絆創膏を使う訳にいくまい。どうせならばショップのラッコ達に寄付すれば良かったのだ。彼らは可愛らしい見た目だが案外行動派で、ラッコなのに武器や資材を求めてダンジョン各地に赴いたりもする。彼らならば見た目も相まって、あのクマプリントに相応しい。
 なのでユーリに対する皮肉を込めてそう言ったのだが……。突然ルークはアッシュの手から包帯を奪い取り、動揺を露わにしてまるで不審者のように震えている。

「これは俺が選んだやつじゃねーから! 別に好きで使ってるんじゃねーからな! おおおお俺は悪くねぇ!」

 そう自棄糞に叫んで、あっという間に部屋を出て行ってしまった。今までルークがこの部屋を出たのはアッシュが追い出すばかりだったのに、今日は自分から勝手に出て行ってしまうとは今までの苦労はいったい。
 それにしても何故あんなに慌てていたのだろうか。ちらりと見えた耳の端が、赤かったような……いや、髪色に紛れただけかも。医務室の備品ならば選択権はルークに無いし、散らかす専門なので、きっと別の所にしまってあるはずの普通の絆創膏を見つけきれなかったのだろう。
 今はついユーリを思い出して嫌味っぽくなってしまったが、別にルークの事を言った訳では無かったのに。何をどう勘違いしたのやら、あそこまで動揺するとは別のやましい事があるのかもしれない。

「……やましい? くだらん」

 ぽつりと呟いてみると、それは思った以上の重みでアッシュの胸を占領する。やましいと言ってもルークの事だから、探している途中に器具を壊してしまったとか、もしかして練習中にもっと酷い怪我をして誰かに治癒してもらったとか、そんな辺りなのは間違いないだろうけれど。
 頭から離れないクマさんプリントの絆創膏。同時にユーリのあの小憎たらしい顔が浮かんでくる。何故だか分からないが、どうにも気になってしかたがない。モヤモヤと晴れない気分は昨日のようだ。
 そしてふと思い出す。そもそもルークがこの部屋に来ていたきっかけ。誰か知らないが船員の悪口だ。邪魔だうっとおしいと何度も愚痴を言いに来ていたのに、気が付けば何時の間にか大道芸の話になっていた。

 ルークが悪口を言うのはその対象が気に入らない時か、……興味を持っている時だ。むしろ自分が興味を持っているのに相手がつれないので、余計悪口で溜飲を下げるという事をよくやる。あの馬鹿は単純なくせに面倒くさい、かつ単純なのだ。もしかしたら、いやまさか……。
 いいや気のせいだ。連日続く世界情勢の影響を受け、自分の中でもネガティブな思考に寄ってしまっているだけに決っている。それに別段、船員と友好を深めるのは悪い事じゃない。時々クレスとロイドに混じって手合わせしている姿を見かける、きっと当初仲は悪かったが段々理解し合っているのだろう。対話は大切な事だ、実際に合ってみなければどんな人間か分からない。
 ただしあのユーリという男はいまいち気に入らないな。あの態度では自分の評価が覆る事はそうそう無いだろう。おそらくルークだって気に入る事は無いはずだ。こういう時双子特有のシンパシーで、人物の好みがなんとなく分かっていた。

 そう自分に言い聞かせるが、不思議と落ち着かなくてソワソワする。机に向かってペンを握っても書類を進める気にちっともならないのは何故だ。ルークの焦りと動揺が移ってしまったのかもしれない。何度も足を組み換えるも、集中出来ずアッシュはペンを落とす。ちらりと横目で見えた自分の剣、何故か呼んでいるような気がして手に取ればしっくりくる。
 自分の剣なのだからそれは当然なのに、普段の安心とはまだ別の気持ちが湧き上がってきていた。なんというか、準備しておかなくては、という逸る気持ち。
 不可解な現象ではあるが、アッシュは他を中断して剣の手入れをする事に決めた。すると妙にその気になってくる。今から切れ味を最大にしておいて、一体何時使う時が来るというのだろうか。魔物相手にはもう十分なはずだが……まぁ、何事も準備はしておいて損はないだろう。
 つい入念にやり過ぎて、気が付けば夕食をとうに過ぎた頃までやっていた。剣は見事にギラギラ輝いているが、削り過ぎてペラッペラになっているではないか。とんだ失態である。このままでは不安だ、明日新しい剣を買っておこうとようやく中断した。何がどう不安なのか、結局分からないままであったが。








ハジ様、リクエストありがとうございました
顔見知り以上友達未満で険悪な感じのY←L、そして+アッシュなコメディのリクエストだったんですが
……ユーリさんドコーみたい、な?あれ?
いやその、ユリルク舞台の方じゃちゃんと険悪なはずです!マイソロ3初期スキットとか、レヴユナの好感度レベル1くらいで!
ただその、ブラコンアッシュ良いよね!本人見えてないと思ってツンってるけどデレてるね!ってウキウキ乗ってたら何時の間にか主役が交代していました
ままままてまだあわてるようなじじじじかんじゃない

マイソロ3のアッシュはこんなの比じゃないくらい怒ってますけど、原作Aを考えるに他の人間からルークをこき下ろされると
自分でも同意しつつも腹の底でものすごく怒ってそうだなーと思いました
でも王位超やる気満々でしたけどねマイソロ3アッシュ!あの後の事も書いてくださいよ公式!
しかし描かれなかったからこそ妄想出来るという美味しさも確かにあるのでうぐぐ
個人的には他人に見せないツンツン状態なんだけど、双子というアドバンテージに油断して口に出さない部分でデレってる、みたいなのが理想です
でも全開でブラコンってるのも超好き!ユーリ相手に貴様なんざ相応しくねーんだよ!って切っ先を向けて欲しい!
って書いてた!欲望に正直!

あと前回の後書きで書いていた女体化案ですね
実は私の完全なるユリルク処女作が後天性女体化コメディなんですよねー
今となっては勢いだけは無駄にある、でも恥ずかしくて見れないお話なので多分一生お蔵入りですごめんなさい!
いつか……いつかリメイクしたいなぁというアスファルトに咲く野花のような勿体無い精神です

ありがとうございました






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