broken heart. not!








「今のままじゃ駄目だと思うんだけどよ」
「はい、その……私が言うのもなんですけど、ルークさんの表現方法はちょっと、なんていうか……」
「なんだよ、はっきり言いやがれ!」
「子供っぽ過ぎるというか、全然伝わってないんじゃないかなと思うんです」

 後日、数十回目のアニーとの作戦会議。そろそろ発案内容にもネタ切れが見え始めた頃、唐突にアニーがそんな爆弾を落とした。
 ユーリにはルークが好きという事が伝わっていない。そのあまりの可能性にルークは大きなショックと動揺を受けた。だって今まで散々好き好きと言ってきたのに。おそらくこれまでの人生の中で、すき、という二文字を一番発していると思う。
 元々好意をはっきりと言う性格でなかったのを無理やり吹っ切って言い続けていたのに……それが、伝わっていない!? 丁寧に組み立てていたレンガがガラガラと崩壊する音が聞こえてきて、目の前が真っ暗になった。
 いや待て待て、そんなに簡単に崩れてたまるものか。ルークの中で多くを占める怒りを持ってきて、ひとまず補強してみる。

「俺があんなにハッキリ好きって言いまくってるんだぞ!? この俺がっ! 伝わってない訳ねーだろ!」
「それです、言い過ぎるんです。ルークさんが見た目に反して思ったより真っ直ぐなのは長所だと分かりました、本当に意外ですけど。でもそれってユーリさんは知ってる事ですか? 本気で好きだとユーリさんに伝わってます?」
「え、え……なんか今地味に悪口言われたような気がするんだけど」
「あんまりにも沢山好きって言うと、むしろ軽く感じちゃいます。好物の好きとか、趣味の好きみたいに聞こえてきますよ」
「マジかよ……」

 アニーにはっきりと言われ、ルークの肩はショックでずり落ちた。だが言われてみれば確かにそう思う。ルークだってあまりにも好きだ好きだなんて言われたら、こいつの言葉は軽いなと思ってしまうだろう。言葉の重みが分散され、本気だと取ってもらえなくなる。そういえば最初の時だって本人目の前にしてはっきり好きと言ったのに、エビシュウマイが好きだと勘違いされた。あれがもしフレンやナタリア、普段が真面目一辺倒な人間が言えばそんな勘違いされる事は無いだろう。
 なんてこった。今までの作戦全てが裏目に出ていたっていうのか。ルークは自分の浅はかさを後悔し、今すぐ過去に戻ってやり直したくなる。だが時は巻き戻らない、今ルークが出来る事は頭を抱えて悲しみに悶えるだけだ。

「落ち込まないでルークさん、まだ取り戻せますよきっと。ここはひとつ、真剣さが伝わるよう原点に返ってシンプルに告白するのはどうでしょう」
「んな事言ったって、俺は今まで全部真剣だったっつーの!」
「でもすぐ怒ったり喧嘩したりしてたじゃないですか」
「うぐっ! それはその、だってユーリがっ」
「今までの作戦でユーリさんが真面目に、きちんと答えてくれたのって何回ありました?」
「うぅ、えっとその……多分1回だけかもしんねー」

 そうなのだ。ユーリから返事らしい返事をもらったのは、エビシュウマイの翌日くらい。それ以外は先にルークがぶちギレたり、何故か喧嘩になったりと有耶無耶になっている。多分聞けたとしても断られるのが関の山、嫌われないだけ御の字。だが出来れば嫌いだと聞きたくないルークが、もしかしたら無意識に避けていたのかもしれない。
 思っていた以上の自分の女々しさと情けなさにルークはじわりとみっともなくなる。強引に吹っ切って自分を誤魔化してきた代償がここにきて表面化し、一気に哀しみが全身を襲おうとしていた。
 だがアニーの優しい落ち着いた声が、励ますように冷静に続ける。

「怒っちゃ駄目です、喧嘩になるなんて論外ですよ。落ち着いて自分の、心からの気持ちを相手に伝えてみてください」
「エビグラタンもチキンサンドもやったし、師匠との手合わせも譲ってやったのに伝わってなかったんだぞ。なのにそんな、ちょっとやそっとで変わる訳ねーだろ」
「物で釣るなんて駄目ですよ。心を告白するなら、必要なのは心だけだと、私は思います」
「アニー……」

 年下の女の子から励まされて、以前のルークならばみっともないと思うだろう。だが自分の事のように真剣に考え、今まで作戦案を共に出してくれていた姿を知っている。クレスやロイドとは違う友情の形を感じて、ルークは暖かな感動を受け取った。

「分かった、俺……頑張ってくるぜ!」
「頑張ってくださいルークさん。一生懸命やればきっとそれだけの結果が出ると思います!」

 勉強と同じですよ、とにっこり可愛らしい笑顔を見せてくれた。クソ真面目でつまんねー奴、と思っていた過去は遠い昔、今では感謝が絶えない程頼りになる。気合を入れ直しルークの足は新たなる第一歩を踏み出したのだった。

「おいこらユーリは居るんだろうなっ!」

 勢い付き過ぎて喧嘩口調に啖呵を切りながらルークがガルバンゾ部屋に入れば、予想外にフルメンバーが揃っており全員の視線が一気に集中する。それに少しだけギクッとして冷や汗が出たが、アニーの心強い笑顔を思い出しなんとか耐えた。
 怒ってはいけない、喧嘩をしてはいけない。当然の事だが照れて口を滑らせてしまうルークには難しい事だ。だが今回こそは、と強く自分を戒める。覚悟を込めた瞳で目的の人物をキッと睨み付ければ、苦笑しながら呆れていた。何度見た表情だろうか。思えばこの慣れきった様子からして、真剣に思われていなかったのかもしれない。
 真剣に。今までの告白は当然真剣に……真剣な、つもりだった。自分の中ではそう思っていたのだが、受け取る側の態度を見ればそう取られていなかったという部分も考えられる。周囲の人間だってどこか微笑ましそうな温度がちらほら見え、単純に年上の背中を追いかけているのだと取られていたように感じられた。
 何せアッシュだって特に何も忠告してこず、あの深い皺を更に刻んで遠目で見ているだけなのだ。ルークからの真剣さが、姿として見えてこない。だから周囲も本人もおふざけの域だと受け取っている。
 無意識に予防線を張っていた。自分の心を考察すればそんな結果が出てくる。だって真剣に、何を捨てても相手を求めたとしてそれが報われなかったらと思うと確かに怖い。だから最後の砦として、心の端っこで準備していたのだろう。
 男同士だから、身分が違うから、真剣じゃなかったから。だからだからだから。もしお前なんか嫌いだと返されても傷付かないように。
 だがそんな鋭い刺が今までルークに刺さった事なんてない。ただ何も無かったかのように、ふんわりと、受け止めさえされなかっただけ。
 ユーリはもしやルークの無意識を読んでいたのだろうか? それとも相手にも予防線があったのだろうか。分からないけれど、今まで退路を断ってまで心を晒してこなかった結果がこれなのだ。
 だからと言ってユーリへの想いが嘘でも冗談でも、ある訳が無い。でなければ今、胸に秘めて溢れそうな決意は一体どこから湧いて出ているというのか。

「ユーリ話がある。今日は……いや、今日も真剣だ!」
「また告白か? 今から依頼に出ようかって話してたんだがね」
「んなモン後にしろ後に!」
「まーた、後から来て無茶言ってんなぁお坊ちゃんは」

 はぁ、と溜め息を濃くする横顔は相変わらずだ。またこんな言い方をして、ユーリの性格を考えれば好感度は下がる一方なのに改められない。相手に好かれるような行動と言動をすればいいのに、どうしてもルークは自分の思うまま動いて喋ってしまう。
 一瞬揺らぎそうになるが、先に答えたのはフレンだった。

「ユーリ、君ももう少し真剣になるべきだと僕は思う」
「オレは見ての通り大真面目に返事してやってるんだが、何しろ相手が聞く耳ってのを持っちゃくれないもんでね」
「君が誰かからの想いをそんな風に無造作に扱える人間じゃないって事は僕が一番知っているよ。真剣じゃないから真剣に返さないのを理由にするには、ちょっとお互い様だと思うけど」
「あら珍しくユーリがやり込められたわね」
「あの、私達先に依頼に出てますね。ユーリはルークのお話を聞いてあげてください」

 意味ありげに微笑むジュディスに、ユーリは珍しく図星を刺されたような反応を見せる。それから気を使ってエステルが先に部屋を出て、最後にフレンが丁寧に頭を下げて出て行く。扉が閉まる前、何やらユーリへ目配せしていたがその意図は分からない。
 部屋はふたりだけになった途端一気に静まり返る。横顔の紫黒は何やら深く考えている様子。目の前に自分が居るのに、一体何を考える事があるというのか。それはまぁ当然、告白への返事なのだろうけれど。何度言っても諦めない迷惑者にいい加減愛想が尽きたのかもしれない。
 それはそうだろう。断っても断っても押し付けてくる好意なんて迷惑に決まってる。これでは良い感情だって抱けない、むしろ嫌われる可能性の方が高いだろう。
 元々ルークは何が好き誰が好きと、はっきり口に出せる性格ではなかった。カッコ悪いし恥ずかしいし、なんとなくみっともない。尊敬するヴァンのように落ち着いて何事にも動じず、行動で示せる大人というものに憧れている。だがそうやってカッコつけても自分には合わなくて、結局ただの我儘や迷惑だと思われる事になってしまった。
 度胸の無さを隠し心を打ち明けても、最後の一枚はベールを被ったまま。そんな臆病で卑怯な内心を、ユーリにはきっと見破られていたのだ。
 アニーの励ましを受け、今日やっとルークは素っ裸になる。みっともなくてかっこ悪くて恥ずかしくて情けない。けれど、その醜悪な全てがユーリへの想いで満ちている。視線は黒色を追いかけるし体は手を伸ばしてしまうし唇は壊れたように二文字ばかりを繰り返す。
 嫌われるのは全部見てもらってから。好かれるのも、全部見てもらってから。そこまでして駄目ならば、やっと諦められるだろう。ルークは出来るだけ飾らない言葉で、バラバラに脈絡無くとも、考えた端から自分の心を晒した。整頓して分かってもらおうなんてとんと思っていない不器用さでも、とにかく一分一秒ロス無く伝えたいのだ。

「好きだ。これは嘘じゃねーし真剣だ。でも別にだからどうとか、何してーとかぶっちゃけ考えてない。ただ知ってもらいたかった、真剣に聞いて欲しいだけ、……だ。気の迷いとか、ガキの勘違いだとか、常識だからで片付けて無視すんな!」
「お坊ちゃんはホント自分勝手だな。自分の気持ちだけ押し付けられれば他はどーでもいいって聞こえるぜ?」
「そうかもしんねー。ただ俺が真剣に好きって事言いたくて他の事無視してんのかもな。それで嫌われるんならもうしょうがないし、ってかそもそもお前俺の事嫌いだろうから、じゃあ別にこれからも押し付けまくっててもいいかなって思ってよ」
「開き直って言う事じゃねぇな、まったく。それに何時オレがお坊ちゃんの事嫌いって言ったっけ?」
「言ったのは聞いた事ねーけど、だってお前貴族とか嫌いなんだろ。俺に冷てーし。第一その、……男同士で好きとか、キモいだろーし」

 自分で言ってて自分で少し傷付く。自分勝手ではあるが、やはり自分の好意を気持ち悪いものだと想像すると胸が痛む。しかしユーリはその部分にはあまり追求せず、足を崩して少し考えた。

「つまりオレがどう返事したってそっちがオレの事好きなのは変わらないんだろ? ならわざわざ毎回同じ事繰り返すのも飽きるってもんだ。いちいち何度も告白しに来なくってもさ、黙って好きでいたらいいじゃねーか。実害がなけりゃオレは別に構わないぜ」
「それは……そうだけど。でも知ってもらいてーんだ、言っときたいんだよお前に。俺が今日も明日も明後日も、変わらずユーリを好きって事を言いたいんだよ!」
「だから知ってどうするって話だろ? オレと何をどうしたいと思ってないんだったら、今まで通りでいいじゃねーか。むしろ黙ってた方がお坊ちゃんの為だと思うけどね」
「黙ってられねーんだよ、じっとしてられるか! そんなんなら最初から言ってねーよ馬鹿じゃねーの! 俺は、俺は自分で言うのもなんだけどよ、我慢なんてした事ねーんだよ馬鹿野郎!」
「ほんと、自分で言うなって話じゃねーか。じゃあ実際ルークはただ毎日オレに好きだって言ってればそれでいいんだな? 一生そこから何も起こらなくて、ただ口にしとけばいいって訳だ」
「あ、あわよくば付き合いたい……」
「付き合って何すんだ? 剣の手合わせや買い物ならギルド仲間として付き合ってやってもいいぜ? それがデートだとかなんとか、違う呼び方をそっちがしてても面倒が飛んで来なけりゃオレは別にいいさ」

 今までの想いを統合すればユーリの言う通りなのだろう。付き合って何をする? 好きだと言い合ってそれから? 具体的な事が思い浮かばないのはルークの経験不足ゆえ。でも取り敢えず仲間同士のような関係を求めている訳じゃないのは間違いない。でなければクレスとロイド達にも同じ気持ちを抱いている事になってしまう。
 立場や世間を考えれば黙っていた方が良いのは当然だし、後々面倒な事にもならないのは分かる。例えルークが異性を好きになったとしても、第一位継承者という立場で婚約相手が存在しているのだ、直ぐ様めでたしめでたしなんて終わらない。
 では本当の所、どうなりたいのだろう。ユーリが好きだ。でも相手は好きじゃないのだろう。でももし万が一例えば奇跡が起こったとして、付き合ったとすればどうしたいのか。やっぱり想像出来なくて、ただ好きになってくれたら嬉しい、で終わってしまう。
 顔を合わせれば挨拶してくれるくらい、近付いたら笑いかけてくれるような、隣に座っても嫌がられないくらいに。その程度になれれば良い。その上で、自分はユーリが好きなのだと知ってくれればもっと良い。
 やはりとんでもない我儘なのだろう。こちらが含みを持って好きだと言えば、相手は無碍に扱い難くなる事を予想し期待している。多分絶対にないだろうけれど、夢の中で楽しむ一縷の望みくらい残しておいて欲しい。

「都合の良い事言ってんのは俺だって分かってるっての。好きにならなくてもいいって言いながら、好きになってくれたら良いなって思ってる。でも期待するくらいいいじゃねーか! それくらい、させてくれよ……」
「けど好きにならなくても良いんだろ? お坊ちゃんは告白さえしてれば満足なんだって今言ったじゃねーか」
「言ったけどそれはそれだ! 俺の事好きになるってんならなっても良いぞ!」
「いや立場おかしくないかそれ」

 噴き出して笑うユーリに、ルークも自分が何を言っているのか分からなくなってきた。真剣に気持ちを伝えているにはいるのだが、脳みそを通さず思いつくまま喋っているせいで頓珍漢な事になっている。
 好意の押し付け、その上での要求。普通に考えて受け入れられないだろうしむしろ嫌悪を抱かせる可能性の方が高い。だがルークは他にやり方は知らないし、もう回りくどい事も嫌だった。
 好きなのが本当なら黙ってられないのも本当、ユーリとどうこうしたい訳でもないが嫌われたい訳でもない。ただ知って欲しいのだ、真剣に好きだという心を。それで嫌われるならばこちらも受け入れるしかない。迷惑だろうから人前で好きだと言う行動は流石に止めようと思う。近寄るなと言われたら柱に括りつけて我慢するしかない。でも好きな気持ちがそれで消えるとは自分でも思えない。
 何かしたい訳じゃないのだ、何も無かった事にされたくないだけ。随分と自分勝手な想いを相手に、思ったままルークはぶつけた。これだけ好き勝手な理屈を言ったのだから、喋り終えたらもう嫌われる事は確定だろう。そう思えば無駄にだらだらと引き伸ばしたくなるが、これだけ言えば他に何も残っていなかった。
 本来ならばたった二文字で済んだ話をよくここまで繋いだものだ、我ながら往生際が悪い。
 飾り立てた言葉は好きじゃない、おべっかも誤魔化しも大嫌いだ、回りくどい言い方なんてイライラする。だから終わって、唇は簡単に閉じてしまった。後出来る事は答えを聞くだけ。十中八九ノーと言われるだろうが、真剣にルークの想いを聞き考えてくれたのなら、もう思う所は無い。
 本当は言われる前に逃げ出したいが、必死に足の裏を縫い止めて我慢した。ユーリはソファに座ったまま、じっと聞いてくれている。普段の皮肉に歪んだ口元は真一文字に真っ直ぐで瞳も真剣だ。ただ好意的なのかどうかは分からない。放つ言葉の一音も逃すまいと、ルークは集中してその時を待った。

「……ルークは我儘なのか卑屈なのかよく分からねーな。好かれたいのかそれとも嫌われたいのか? そこらへんもうちっとハッキリしてくれ。でないとオレの出方も分からないだろーが」
「んなもん好かれたいに決まってるっつーの!」
「じゃあ行動もそれに習ってくれよ。今までだとただの迷惑行為だぜ、ガキだから許せる範囲ってだけでな」
「誰がガキだ誰が! そ、そんなに迷惑だったのかよ……」
「お坊ちゃんがっていうより周囲がなんだが、どーせ知らないだろうからいいけど。まぁ本人がこんだけ大真面目なら……信用するとしますか」

 言い終わりユーリは剣を持って立ち上がる。鞘に結ぶ紐をくるりと軽やかに回し、すたすたとルークに向かって歩き始めた。まっ直線に貫く瞳にドキリと慌て、近付くにつれ緊張はピークに。断られるのかそれとも怒られるのか嫌われるのか。どれもありそうで怖い。
 耐え切れずぎゅっと瞳を瞑ると、足音は簡単に通りすぎてしまった。え? と思い振り返れば見えるのは背中。引き止めたいが叫ぶ言葉が見つからず狼狽える。何も言わないのがユーリの返事ならば、つまりそういう事なのだろう。想いを返す価値すら無いと判断されてルークの足は竦む。今まで強気で保っていた姿勢が崩壊しそうだった。
 鳴り響く嫌な鼓動で体いっぱいになり、ルークの涙腺は緩みそうになる。人前で、よりにもよって告白した相手の前で同情を誘うような事はしたくないのに、体が言う事を聞かない。振り返って欲しいが、嫌いだと言われれば本当に泣いてしまうかも。
 迷っている間、穴が空く程見つめた紫黒の長髪が揺れ、ついにこちらへと振り向いた。しかし不快に歪んでいるかと思った表情は予想……外に、特に変わりなく。いやむしろ今までより少し笑っている。そして顎をクイッと上げ、他の誰でもないルークに合図を送った。

「おいおい、何ボーッとしてんだよもう行こうぜ」
「……は? え、何どこに? ってか、えーっと」
「何って、ルークが突撃して来たせいでフレン達に置いていかれたんだからな。今から行っても間に合わないだろうし、なんか別の依頼探して行こうぜ」
「ま、待ちやがれ! おい俺は今お前に告白して返事を待ってたんだぞ!? なんでいきなり依頼に行くんだよ!」
「いやだってルークは真剣な気持ちが伝わって、それでオレに好きだって言えればそれで良いんだろ? 十分聞いたって、耳にタコ出来るくらいな。なら別に今返事しなくてもいいだろ、なにせ好き好きーって言えればいいんだし」
「え、ええぇ〜……。いやでも、嫌いなら嫌いってはっきり言ってくれた方がスッキリするっつーかよぉ」
「だって返事してもそっちは変わらないんだから、どう言っても同じじゃねーか。それとも嫌いだから二度と近付くなって言や諦めんの?」
「うう……嫌だ……。ストーカーしてやるぅ」
「余計に質悪くなってんじゃねーか。それに言ったと思うけど別に嫌いじゃないぜ、その駄々漏れに分かりやすい所とかな。わりとウザいけど」
「この野郎、俺の心を弄びやがって……良心は痛まねーのかよ!」
「お坊ちゃんいわくオレは大罪人らしいからな。悪い事してもちっとも傷まないわ」
「テメー!」

 あんまりな返答にルークの短い我慢がぷっちり切れてしまうかと思った。しかしアニーの迫力ある笑顔が、怒っては駄目ですよ喧嘩してはいけません、と引き止めてくれる。いやしかしこの扱いは怒ってもいいんじゃなかろうか。
 宙ぶらりんの結末を好む人間などそう居ないはず、ユーリだってこんな回答をするような人物とは思っていなかった。なのに何故こんな事を言うのか。
 すっきりさっぱりお断りだと言えば済む話なのに、何故と聞く前に触れてきた指先のせいでルークはびっくり硬直してしまった。

「そもそもなぁ、嫌いな奴なら声かけられても足なんか止めるかよ。その上ちゃんと振り向いて相手してやってんだ。これだけでもーちょっと希望はあるって思わないのかね?」
「ど、どーいう意味だそれ」
「お子様の狭い視野で考える程、悪くないってこった。オレは嫌いな奴でも相手してやる程我慢強くないからな」
「だってそれは、ギルドメンバーだからで……」
「ギルドメンバーだから表向きは仲良くしましょうって、オレがそんな器用な事するかよ。ルークとの最初がどんなモンだったのかもう忘れたのか?」
「あの時は! そのぅ……」
「お子様の素直で直球な告白が続くんなら、もしかして将来的に頷くかもしれねーな、って思っとけよ。期待に答える日が来るか保証しないけど」
「だ、だから……どっちなんだよ!?」

 卑怯だ、惚れた弱みに浸け込みやがって。でも好きだ。突然繋がれた手からじわじわと嬉しさが這い上がり、頭がカーッとなる。今まで半径3メートル内までの侵入がやっとだったのに、いきなり接触だなんて階段を登り過ぎだ。嫌いって言われなかっただけマシ、むしろどことなく好意的。それだけでも天にも昇りそうなのに、指先からデロデロと溶けてしまいそう。
 心臓がうるさくてユーリの言葉がどういう意味なのかいまいち理解が追いつかない。要するに生殺しでいろ、と? 考えれば色々キツイ返事である。しかしユーリの手がルークの手を掴んだまま歩き出したせいで、それでも良いかなと思ってしまった。
 期待は捨てなくても良いと言ってくれた、保証はしないけど。もしかして好きになって、くれるかも。本当に、本当に? ちょっと信じられない、と反射的に思ってしまったのはこれも心の予防線だろうか。だってもし言葉通り受け取ればルークにとって都合の良い事ばかり。
 反面ユーリに何の得が? 迷惑と言っていたじゃないか? しかし繋いだ手はそのままで、遂にはエントランスホールへ出てしまう。

 普段を知るアンジュが瞳をぱちくり丸めて見つめてくる。だがユーリは全く気にした様子も無く何時も通り、普通に依頼を選んで勝手に決めている。パッパと依頼を取ればそのまますぐに出口へ歩く。ルークは猛烈に恥ずかしくなりながら、アンジュのいってらっしゃい? という不思議そうな見送りにぎこちなく手を振った。勿論繋がれていない反対側を。
 おかしい、こんな事で恥ずかしがるなら昨日まではもっと恥ずかしくならなくてはいけないはず。だって人前だろうが関係なく好き好き言っていたのに。たかが手を繋がれたくらいでこんな、全身のコントロールを奪われたみたいになってしまった。
 甲板に出てタラップを降りれば、ようやく手の平はパッと離される。こっちが普通なのに、離された途端に冷たくて寂しくて悲しくなった。餌だけ撒いて突き放すつもりなのだろうか、なんて大罪人だ。
 狼狽えたままのルークをユーリは笑い、意地悪な瞳が楽しそうにきゅうっと歪んだ。サディスティックである。

「なんだよ、もっと繋いでて欲しかったのか? まぁお坊ちゃんは思考回路も足もすーぐどっか行くから、繋ぎっぱなしでも良いぜ」
「ばばばばばやろう心臓が爆発するっつーの! あ、歩くくらいひとりで、歩けるってん、だっ!」
「足元フラフラだぜ、顔も真っ赤だし。そんな調子で戦闘大丈夫なのかよ? また後ろで見学でもしとく?」
「舐めてんじゃねーよこんくらい! こっ、こんくらいの事っで! ってわーばか近付くな! 近い近い!」
「この程度の距離、今までもあっただろーが。騒ぎすぎなんだよルークは。そんなんでオレと付き合いたいって、ちーっとばかし高望みなんじゃないの」
「ちちちちちち近付かなくても、つつつつ、付き合える、しっ!」
「何言ってんだ、付き合って何もしない訳ねーだろ。もっと凄い事してやるからな、期待しとけよ」
「すすすすすす凄い事ってなんだよばかやろうーーーーーっ!?」

 つつつつ付き合ってないよな、少なくともまだ! しかしユーリの笑みはいやらしいのである、卑怯だ。想像しようとしても想像出来なくて、ルークの頭はもう髪色の境が分からなくなっていた。
 今まであんなにつれない態度だったのにどうした事だろう。やっぱり真剣に告白した想いが通じたのだろうか。にしてはやっぱりつれない返事だと思うのだが。
 だが思い返せば確かに、今までユーリが冷たかった事なんて本当に最初の頃だけだった。やけくそに好意の襲撃を始めてからの態度は軟化していったのを覚えている。呼べば足を止めてくれたし、振り返った表情が苦笑してても無視はしないでくれた。言う通り諦めずにいれば望みは叶うのだろうか、本当に。もしそうなら……。

 ルークは期待と不安を同時に背負い、少し先で足を止め待ってくれている暖かさにそれ以上の未来を見た。絆されてくれるってんなら頑張るしかない。後になってやめときゃよかったと言っても遅いのである。
 にやける口元を振り切る為に、距離を少しでも縮める為に。その足を張り切って駆け出した。








うおの様、リクエストありがとうございました
ユリ←ルクからのユリ→←ルク、とのリクエストですが
デレルークのば可愛さは私も国宝級だと思います(ここまで挨拶)

こう、世間知らずで我儘で自分本位なんだけど素直で可愛いのが長髪の魅力だなーと私も常日頃思ってます!
悪口じゃない、決して悪口じゃないよ!
クッソ生意気でこいつ何言ってんだ、って感じなんですけど、でもちょっと仲良くなればすぐデレてこいつチョロいぞ!って所とか本当に最高に可愛いんですよぉ
……おっかしいな本当にそこが好きで褒めてるんですけどパッと見完全に悪口ですねコレ
そんなルークがデレて頑張る姿がたまらなく可愛いです、何度か書いてますが何度書いても可愛い
でも元の性格が性格なのでそう簡単に素直にはなれなくて、でもチョロルークだからめげなくて、自覚無きトラブルメーカーだからすんなり事は運ばくて……
どうしてデレルークのお話は常にコメディになるのか不思議ですねテヘペロ

作中気が付けばついユーリさんをデレさせてしまいそうになって大変でした
いやデレてるけど、デレてるけど!でもまだデレてない!
次回、ユーリのデレ攻撃にルーク恥ずかしくて引きこもりになる、の巻
あっこれいつもの事だった

ありがとうございました






  →


inserted by FC2 system