anti, World denied








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 瞼が明かりにぴくぴくと反応し、睫毛が揺れている。待っていればゆっくり開かれ、翡翠色がお目見えした。やはり少しやつれていて眉間の皺が取れそうにない、そんな面立ちがアッシュに近いなと自然に思わせる。
 眠たげに、でも起きようと目を擦るのでユーリはそれを止めた。びくりとゆるい肩が跳ねて、触れている手へ視線を下ろす。そこからゆっくり辿り、顔を上げてようやくルークはユーリを見た。自分側では随分前から観察していたのだが、改めて一つ一つを確認していると本当に、ルークは不安定だと思うばかり。

 ぽかんと口を大きく開き、瞼だってどんどんまん丸くなっていく。瞳が潤んでブレたと思ったが、突如ルークは頭からユーリの懐へ激突してきた。どすっといい音の通りに子供の体重が乗って、今は流石に痛い。剣で風穴が空いた丁度の箇所を狙ったのか偶然なのか、塞がっているとはいえユーリは背中が僅か引き攣った。
 それから、自分の懐で震えているルークの背中を撫でる。ぎゅうっと抱き付く腕は一生懸命なのに、ユーリの腰回りを半分しか占領しない。実年齢ならば一回り余裕だろうに、どうしてなんだろうと、先程聞いたのも忘れて単純な疑問が浮かんでしまう。背中だって狭くって、ユーリの手の平広げてふたつぶんくらい。それを曲げているせいでもっと小さく見える、そういえばこの子供は眠る時でも丸まっているなと思いだした。
 ズボンの裾から見える足首だって細くて、若木のようだとお世辞にも言えない。まるでルークはつくりものだ。最初から果敢なく稚けし憐れにひたる為に創られた、予定調和。他者から可哀想に、という言葉を引き出すよう特化した姿が、本当に憐れだ。そんな風に生きなければならない、一体誰がそんな勝手を決めているのか。
 黙って撫でているとルークは頭を上げ、くしゃくしゃに潰れたみっともない顔を晒してからユーリに怒鳴った。

「この……大馬鹿野郎、カッコつけ、考え無し!」
「考え無しって……そりゃ誰よりもルークに言われたくねぇな」
「言うに決まってるだろ!? ユーリは死んでも治らない超大馬鹿野郎だ!」

 馬鹿野郎と大声で、ボキャブラリの少ない悪口を頑張って並べ立てているが全く迫力も怖くもない。そうやって怒っている姿が必死で、どんどん顔を歪めるものだからむしろこちらが責めているような気分にさせる。
 よしよし悪かった、そんな風に宥めながらユーリはルークの髪を撫でた。何時もならばそれで静かになっていくのだが今日は収まるそぶりも見せない。子供の体を引っ張り上げ横抱きに、ぎゅっと集めればほんの一瞬だけ静かになる。ぷらぷら揺れるルークの小さな足先、その影がベッドの白さに映えて落ちた。子供だから、こうやって抱き締めれば簡単に浮いて足すら着かないではないか。
 ルークの幼い高音が苦しそうに、ユーリの懐を指が白くなるまで掴んでいる。普段着は黒い分、今着ている病衣は薄水色で目にやさしい、その色合いが余計に肌色と溶けて手を白く見せた。

「なんであんな事したんだ馬鹿っ……もう絶対絶対するな!」

 切り絞った声、こんなに苦しむのならばしなければいいのに。声に出して言わなくて良かった、ユーリはそう考えながら、普段と変わらないよう努めて答えた。

「さーな、オレがどうしようがオレの勝手だろ?」
「ユーリお前……死にかけたんだぞ、本当に危なかったんだ!!」
「じゃあルークも二度と一人で動いたりしないだろうな?」
「お、俺の事はいいだろ、そんなの……」
「おいおい、自分の要求は突きつけておいて人の要求は突っぱねるのかよ。とんだ王様だな」

 ラザリスとのやり取りみたいだなとふと考える。ラザリスは赤い煙の時、願いを叶える事を媒介にして知識を蓄えていった。それは虫や植物・動物・人間多岐に渡り、ほぼ全ての生き物達の声を聞いたのだろう。
 お互いに利益が一致していたとはいえラザリスはある意味で相当な数の命を助けたはずだ。助けられた側は少しくらいその感謝を示してもいいんじゃないだろうか。せめて言葉を持つ人間くらいは、ありがとうくらい言っても罰は当たらないはず。
 だが人の要求はエスカレートしてただの欲に塗れ、最終的には自分達の不始末である世界救済を望んだ、ディセンダーと呼んで。好き勝手して生きた罪を誰かに被せようとしていたのだ、結局の所救世主を待つという心理はそんな所だろう。
 皆誰も彼も、ほんの少しずつ考えが及ばなくて、生きる事だけに必死だった。その僅かな傲慢がラザリスを呼び起こし、悲しませてしまった。悲しい結果だが、これは恐らくどうしようもない辿るべき出来事だったのだろう。ルミナシアがジルディアを保護し、地上に生き物が生まれ人間が生活している以上避けられない運命。
 そんなラザリスに願った時点で、あの夜の怒りは明確だったのだ。分かりきっていた、予想出来た範囲。だからディセンダーは危険だと言い、ジェイドは止めた。ルークは状況を無視して自分の利益を優先しようと動いたのだから、あんな結果になるしかない。口籠って顔を逸らす、その仕草が語っている。

「……それは」
「一方的に利を得ようとするのは自分勝手じゃねーのか、少なくともそんな事するのは子供の内だけだと思うけどね」

 ルークが爆発して飛び出すので、あからさまに子供だなんだと言う事は控えていたが今日ははっきり口にした。子供のような、子供だ、子供みたいで。子供が他者の考えに至り難いのは、王様は自分だけじゃないとまだ知らないから。家族や身内以外、全くの他人と触れ合う事でこの世は自分の為にある訳ではなく、自分がこの世の為にあるのだと知る。
 それはごく普通の通過儀礼だ、誰もが通る道で、誰もが通れる道。時にはそれを通らない者も居るし、通っても自分は王様だと自信を持って振る舞う者も居る。けれどルークは違う、その場所に立ったまま待ちぼうけしているのだ。
 ルークとアッシュは双子、17歳。10代後半から20代前半あたりの、青年と呼んで差し支えない年齢だろう。これくらいになれば程々世間の汚さを知り、けれどまだ希望を捨てきれない時期。青臭いがだからこそ美しい、若さ故の盲目すら武器になる年頃だ。
 しかしこれもルークは違う、武器にも弱点にもならないゴミとすら言えない、その歴史を重ねる事が出来ない。持ち物として許されもしない。だからガルバンゾの時、強く反応したのだろう。おおきくなれないぞ。宝珠が体内にある間はどうやってもルークは成長できない、好き嫌いせずともどうせ。

 ルークの眉はもうぐちゃぐちゃに歪んで、破裂しそうな感情を必死で抑えこんでいる。怒りを見せる事は多かったが、その殆どが衝動をぶつけていただけにも見えた。それも子供の作法のように、ただの癇癪と言ってしまえる具合なのを覚えている。
 そんな記憶とは違う顔で、ルークは動揺と衝動と苦しみに溢れ、口元をこわごわ震わせながら小さな声を放つ。聞きたいのかそれとも聞きたくないのか微妙な音量だが、きっと同量に思っているのだろう。

「俺の事言ったらユーリは……俺の事、……み」
「どう思うかはオレの勝手だけど、まー今とあんまり変わらないと思うぜ、少なくとも」

 遮って最後まで言わせない。そんな風に思われているとルークから聞きたくなかった。ユーリはルークの前髪を掻きあげて表情をよく眺める。大きな瞳は今にも零れそうで、ほっぺたは真っ赤だ。泣きそうに見えるが涙なんて跡すらない、そりゃそうだ17歳が簡単に泣いてたまるか、という矜持だろう。
 それからルークは口をへの字につぐみ、ユーリの胸元に顔を擦り付けた。ぐりぐりと隠したいのか無言の訴えなのか、よく分からないが黙って頭ごと包む。濃い深紅のつむじが見え、ふわふわと揺れてくすぐるのでこそばゆい。

「……それじゃ駄目、だ。ユーリが無茶すんのは、……嬉しくない」
「そっくりそのまま返してやる。お前もうちょっと周りに頼れ、なんでも自分の中で片付けんなよ」
「そんなの、ユーリに言われたくない。大人ぶりやがって、えっらそーに。……ぼろぼろのくせに」
「傷は男の勲章って言うだろーが、治癒術で傷跡もねーけど」
「残ったら困る!」
「へぇ、お前が? そりゃ是非困らせたいな」
「じゃ、じゃあ困らない!」
「困らないならオレがどうしようと勝手だな。リタに相談持ちかけとくかぁ、ルークが離れたら鈴でも鳴るような装置でもさ」
「ばか、ばかやろー!!」

 ルークは怒り出し、小さな拳でぽこぽこ殴ってくるが子供の力なので痛くもない、痒いくらいだ。ユーリは笑いながら受けてやり、わざとらしく痛い痛いと言って弱ったポーズをすれば拳は止む。縋り付いて額をユーリの肩に預け、蚊の鳴くような声でぼそりと言った。

「……だめだ、あんまり知られたくない」

 知られたくないと言う、自分自身の事を。決して開かなかった口が今ほんの少しだけ綻んだ瞬間を、ユーリは見た。
 傲慢な我儘を子供という殻で包んでいるのはルーク自身、本当に賢いならば自己防衛をもっと高めるし抵抗の意思と行動を見せるだろう。素直で健気な態度をとればもっと上手くいきそうなのに、それとは真逆を選択しているのだからやはりちぐはぐで愚かだ。その愚かさがルークにとっての、唯一の抵抗なのだとすれば……本当に大馬鹿者なのは全くどちらだろうか。
 そうやって手のかかる餌を垂らされて引っかかったのは見事ユーリだ、少しくらいは文句も言いたくなる。何だかんだ言って選んだ道を戻るつもりはないし、ああすれば良かったこうすれば良かっただなんて今更言うつもりはない。むしろああやっと入り口かよ、なんてやる気になってしまったではないか。
 上手くこき使われている、そう誰かに言われても気にならないくらいには、最早ユーリはルークが気になって仕方がない。子供だから可哀想だから、そんな理由はどうでもいい、したいからそうする。ユーリにとってはそれだけで十分理由になった。

「他の奴がお前の事知っても、変な事にはならねーと思うけど?」
「うん、それは分かる。分かるから、余計駄目だ。みんな同情なんてしないし可哀想だなんてきっと思わない、絶対助けてくれるに決まってる。だから駄目だ。これ以上ユーリみたいなのが増えたら……困る」
「はは、そりゃ確かに」
「ほんとに、困るから駄目だ。ユーリだって駄目なのに、なのに俺の言うこと聞いてくんねーし……」
「なんで駄目なんだ、オレくらいいいだろ。まさか今頃迷惑かけるだとか思ってないだろうな」
「あのさぁユーリって俺の事ほんっと、すっげー我儘なガキだって思ってるだろ」
「へぇ、自覚はあるんだな。そっちの方が驚きだわ」
「……あるよ、ばかやろう。なのになんでライマの奴でもないのにユーリは俺に構うんだよぉ」
「国なんて今更だ……何度も言ってるだろ? オレの勝手だって、な」
「お前みたいなのがいるから、俺は……」

 その続きを聞きたいと待ったが、ついぞ出てこなかった。ルークの制限はどこに掛かっているのか不思議だ、周囲を巻き込むのが嫌だからなんて理由は今更過ぎると思う。何しろユーリはもう十分過ぎる程首を突っ込んでいる。自分の性格上こんな問題を放置するなんて無理にも等しい、どうせ言うならばもっと一番最初から言わなくては。
 かと言ってユーリはどの時点で言われても、子供の姿をしたルークを放っておけるとは思えない。大人ならばまだ自己責任だ、と無理くり言えるかもしれない、例えばアッシュの大きさや態度。世間を知って己で選択した事に、他人が文句をつけるなんて大きなお世話だろう、そんな事ユーリからすれば日常茶飯事だが、それはまた相手次第。
 頼られれば一応聞くだけ聞くし、お願いされればそんな気分になるかもしれない。そうやってユーリはよく誰かの世話を焼いて焼かれて生きてきた。言ってみれば生き方だ、だから”たられば”を考えても無意味な事であり時間の無駄である、だから。
 ガルバンゾでルークがユーリの部屋で目覚めたあの時、あの時からユーリがルークに首を突っ込むなんてごく当然の流れだったのだ。もっと言うならばカロルが依頼を受けたから、ルークが誘拐され運ばれたから……突き詰めれば、ルークに宝珠が埋め込まれたから、ユーリと出会った。
 必然の流れにユーリは目を瞑り、静かにルークへ言う。

「オレは……ルークから言ってくれるまでのんびり待つさ」
「……ユーリ、お前は本当にばかだ」
「馬鹿みたいでも、そうやって生きてきたんだからしょうがねぇだろ」

 ルークはもうそれ以上口を開かなくなり、顔も上げずただただベッドシーツの皺を増やすだけ。ユーリは黙々と背中を撫で、長い沈黙を過ごした。どのくらいしていたのか、気が付けば小さな寝息が聞こえてくる。顔を窺えば眉根を寄せて苦しそうに眠っている表情、小さな拳はぎゅっと頑なに握ったまま。眠りにまで持ち込まなくてもいいのに、そう思ったが持ち込ませたは当のユーリだ。
 悩んで縋り付けばいい、助けてくれと。そうすればユーリは大手を振って駆けつけるし助けられる、良い事尽くめじゃないか。どうしてそうしないんだ。

 我儘なルーク、彼は本当に我儘だ。アッシュがあれ程頭を悩ませ守ろうとしているのに、悪魔の囁きに誘惑されて自ら壊そうとしているなんて。周囲の尽力だって知らない訳でもないはず、それでも結局ルークの決意を変えられなかった。
 突然依頼に付いて行きたいと言い出したのは恐らく、死に場所を求めて。溶岩では体全てを溶かしてしまう、砂漠は熱風に焼け死ぬのは苦しそうだから嫌で、洞窟の刺は痛そうだから外れたのだろう。あの時ごめんなさいと震えた口は、全くなんて嘘つきなんだろうか。
 同行にアッシュが強く反対したのは単純に危険だからじゃない、その危険な選択肢を増やす事を危惧していたからなのだろう。あの時そう言ってくれればユーリとて反対していたのに、今更だ。ルークもルークで、あんなにも嬉しそうにはしゃいでいた根底はなんて酷いものなんだ。
 宝珠を取り出せる希望をラザリスに見出しているのに、死に場所を求めてダンジョンを見て回る。恐らく両方を同時進行しているのだろう賢い事だ、だから余計に愚かさが際立つ。そして手段の片方は絶望的になってしまい、後に残っているのは……。

 アッシュの言葉を思い出す、ルークが恐れているもの。生まれた時から縛られた王家の血筋以外に、勝手な古い言葉の預言。周囲ではごく常識的で正義だと思われている物事を否定するには大きな勇気が必要だ、それが後ろ盾になっているのならば尚更。
 ガルバンゾでユーリが問いかけた、誰かの言葉を疑いなく信じるかという言葉にルークは口を噤んだ。疑いなく信じればルークかアッシュはどちらかが死ななくてはならない、そのどちらもしたくないと考えるのは当然だろう。アッシュもルークもお互いの死を避けようと行動している、それが見事すれ違っているとは笑い話にもならない。避けるには埋め込む事自体を拒否しなければならなかったが、ライマ創世の成り立ちからして異議は立てられなかったのだろう。

「兄上はなによりも、成人すればお互い殺し合わなければならないという脅迫に怯えている。絶対にするつもりはないが、もしもお互い剣を持てば不利なのはどう考えても兄上で、拒否し続けても宝珠は体内に残り続ける」
「糸口は本当に無いのかよ、どうやっても?」
「ジェイドが昔から探っているが成果が出た事が無いのが現状と言えば現状だな……」
「その諸々をルークは知ってるのか」
「俺達が言った事は無いが教団の奴らが洗脳目的で吹き込んだ可能性は高い。……昔は色々、あったからな」

 色々、そう言うアッシュの表情は暗い。ユーリには想像もしたくない世界だが、御大層な目的を掲げて自分の命すら消費してしまう事を喜びだという人種も知っている。自分だけならばともかく、周りを巻き込むタイプは迷惑で収まらない。
 その呪詛がルークの恐怖を煽り、自らの考えを傾けた。家族や周囲に愛され国王だって否定的なのだ、そのまま甘えて任せてしまえばいいのに、それが出来なくなるくらいまで追い詰められている。

「ただの子供とは思ってなかったけどよ、お前……」

 ぽつりと零す声は、年月と同じように重く聞こえた。7歳にしては大人びているが17歳にしては幼すぎる、実年齢と体の差異。保護されなければ生きていけない事実と、実際その通り好き勝手に可愛がる周囲。17歳として生きられない、それを利用するしか手段を持たない子供。
 ライマの彼らは全て知っている上で可愛がっているのだろう、地雷原の中でも彼らにはその地雷が見えている、そっとそっとお互い了承して当たり障りなく、けれど愛情深く接している。ナタリアやガイは時々じっとりと湿った瞳でルークを見ている事があったし、アッシュがルークを兄上と人前でもはっきり呼ぶのは僅かながらの抵抗で、忘れ去られないように。
 何かで留めておかなければ止めておけない、日常で当たり前にしてしまわぬように皆必死で抵抗していたのだ。ルークもそれを分かっている、分かっているのにどうして。

 アッシュが語った全てをもう一度深く思い出し、それから過去ガルバンゾでのルークを振り返る。あの生活は終わりを決めて目を瞑ったルークが、予想外に得た時間だったのだろう。何も知らない相手とごく普通に、自分も一時忘れてそれに浸った。幸福だと思ってくれていればいい、そう願う。願うけれど、それらの全てはルークにとって本来不本意な数々だったという真実にユーリは苦しむ。
 楽しそうに街を眺めていた表情、与えられた仕事を張り切ってこなす仕草、褒められて嬉しそうに笑う幼さ。そしてその裏に潜んでいた影、悲しみの欠片。ルークは馬鹿だ、本当に馬鹿で我儘で自分勝手でどうしようもない。
 どうしようもない事を、無理だと諦めてしまった事が、一番どうしようもない。そんな簡単に諦めてしまわないでくれ、たった……17年ぽっち、じゃないか。

 ガルバンゾ、ユーリの部屋で初めて共に眠りに就いたあの時。苦しそうに眉を歪め、必死で口にしていたルークの寝言。夢の中でも叫び続けていた本当の願い事、ユーリはそれを聞いていた。
 何も知らなかったあの時期、余りの不似合いさに聞いた体はぎくりと固まってしまったのを覚えている。だがやはり聞き間違いではなかった。声に出して願う事が禁忌だと言わんばかりに唇を型どって、藻掻くように口にしたルークの切実さ。
 ……死にたくない、と。






  


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