SOSロマンス








2

****

 その日ユーリは昼食を終え、さてこの後どうしようかねとのんびり考えている時だった。食堂でロックスがいれた紅茶を飲みながら、クッキーを食べているとルークがむすっとした顔で食堂に現れる。

 どうしてこのお坊ちゃんは、毎日毎日こんな不満そうな顔をしているのかユーリには不思議だった。確かに自分もニコニコしている訳ではないが、ここまでつまらなさそうな顔はしていない。
 双子の弟であるアッシュも、眉間に皺を寄せて気難しそうにしているのをよく見かける。だがあれはまあ、性格から滲み出るものだろうなと想像は付いた。アッシュは年齢以上に自分にも他人にも厳しいので、その硬さが顔に出ているのだろう。歳を重ねてあの硬さが抜ければ、良い国政者になりそうだ。
 しかしルークはどうにも、ちぐはぐな印象の方が強い。激しい訳ではないが、穏やかな訳でもない。子供ではないと自分で言うが、子供のような言い分と態度を利用する場面も見せる。良くも悪くも素直で面倒な子供、という奴だろうか。案外考えている事全てを口に出させれば、簡単に終わってしまいそうな性格のように見えた。けれどそれは容易ではないだろうという事も、簡単に想像付くが。

 ルークは席には座らず、ユーリの横に立ちじろりと上から見下ろした。視線で脅しているつもりなのだろう、だが全く怖くないのでユーリは平然と紅茶を啜る。察して聞いてやってもいいが、面白そうなので黙って待つ。恐らくその辺りも気に入らないのだろう、ルークは短気そうに声をかけた。

「おい大罪人、ちょっと顔貸せ」
「オレは高いぜ? 1時間1000ガルドは貰おうか」
「10分でオレンジグミ1個分か……お前安い奴だな」
「グミで換算するのやめてくれるか? んで、何の用だよ」

 予想外の返しをしてきたので、ユーリはカップを置いてルークの方へ体を向ける。机に肘を突いて面白がるように、此方から見上げた。

「……ナタリアとお茶会するから、お前ちょっと隣に座ってろ」
「身内の茶会とか、勘弁してくれよ……。クレスとロイドは?」
「依頼で居ない」
「ああ、お坊ちゃん友達居ないもんな……」
「うっせ放っとけ! お前、俺に恩あるだろ、今日返せ!」

 貴族の茶会なんて響きにユーリは少々うんざりするが、ナタリアとエステルが時々やっているその茶会は、どちらかと言えばただの茶飲みだ。ここにアッシュやウッドロウが参加すると途端に政治談論になり、一般人は居た堪れなくなるがルークならば大丈夫だろう。
 そう言えば100ガルド分の一生の恩があるんだったか、ほぼ忘れていた事がぼんやり思い返されてユーリは頬を掻く。あれから全く何も言ってこないものだから、遠い彼方に行ってしまっていた。

「そういやそんなものがあるんだったな、忘れてたわ」
「一生の恩だぞ、簡単に忘れんなっつーの」
「へいへい、そうでしたそうでした。一生分だったな」
「さっさとしろ、今すぐだ!」

 ルークはびしりと指を突き付けて、喧々と言う。それにユーリはめんどくせ、とぼそりと零して立ち上がる。ばっちり聞こえたのだろう、茶器を片付ける前にユーリの腕を掴んで大股で歩き始めた。

「いいか、お前余計な事言うなよ? 何聞かれてもへらへらしてろ、そういうの得意だろ」
「誰がへらへらしてんだよ……。お坊ちゃんは毎日船内でぶらぶらして暇そうに、ロックス達が走り回っててものんびりぼっちで良い子にしてるって言えばいいんだな」
「してねーだろそんな事!」
「すいませんね、オレはそういう場面以外見たことなくってよ」
「この、このっ!」

 ルークがローキックをばしばし当ててくるので、ユーリは鞘でそれを受け止める。事前準備からしてこの調子では、この茶会はどうせ碌でもない事にしかならないだろう。だがその碌でもない事も、被るのはルークだけに願いたい。借りと言っても所詮100ガルド、うんうんと場に合わせて返事する程度で十分のはず。
 まあ、面倒と言ってもどうせナタリアの茶会。エステルと一緒にお茶を飲んでいる場面に数回居合わせたが、穏やかなものだ。王家のお姫様らしく庶民とのギャップに驚いた事や、世界の現状を心配げに相談している程度。そう心配する事もないはずだ。


 展望室に上がれば、机と椅子が出されてティータイムの準備が整っている。席にはナタリアと、ジェイド。ガイが茶器を持って、ケーキを配膳していた。

「座れ」
「……ジェイドも居るのか」
「あいつ、偶に気まぐれ起こすんだよな……」

 ジェイド一人が居るだけで、妙に気疲れしてしまうのは気のせいではないはず。ちょっとばかり舐めていた気分を少しだけ引き締め、ユーリは席に座る。ナタリアの横に座る訳にもいかないので、ジェイドの横なのが落ち着かない。

「おやおや、ルークが貴方を連れてくるとは」
「まあ、偶々」

 当たり障りなくそう言って、ユーリは素知らぬ顔をする。100ガルド分の取引があったにせよ、ケーキを食べれるチャンスは悪くない。ただ気分良く食べれるか、という点はなさそうだが。
 ルークも席に付き、ガイがテキパキと配膳に回った。その手付きは優雅で手慣れており、普段ルークと気安く接している友人の側面を忘れさせる。そう言えばガイはルーク達の幼馴染みで、その分従者としての付き合いも長い。ならばこの所作も当然と言えば当然か、執事のようにスマートに終わらせてしまう。
 席は4人で埋まっており、ガイの席は無い。ただの茶飲みならば同席するが、王族様の茶会では退く、という事か。思った以上に固い席なのかもしれない、エステルとの気安さに慣れていたのでユーリは少し居心地が悪くなった。

「今日のゲストは珍しいですわね、ルークがユーリを連れてくるだなんて」
「いいだろ、別に」
「ユーリ、あまり固くならないでくださいませ。普段通りで構いませんのよ」
「ま、ケーキ食ったら退散させてもらうわ」
「私も書類が残っていますから、程々で」

 どうやらジェイドも連れだされた体らしく、苦笑しながらカップに口を付ける。ナタリアやルークも軽く茶を飲んで、ゆっくりとケーキに手を付けた。相変わらず王家の生まれである人種達の食事作法は優雅で、ユーリは目を奪われる。特にルークは普段の態度が態度なので、ギャップの差が激しい。
 それを見抜かれたのか、ジェイドが軽く笑う。

「食べている時は、わりと気品があるんですけどね」
「そうだな、流石に」
「それも嫌いな物が出てくると、一気に子供になりますが」
「だろうなぁ、よく見かけるわ」
「お前ら、俺を見ながら話すな!」

 自分の事を話題にされているのは流石に分かったのか、ルークは目を尖らせる。ユーリとジェイドはお互い肩を竦め、やれやれと通じ合うような動作。それにナタリアはクスクスと笑った。

「でも、珍しいですわね。ルークからお茶会をしたいと言い出すなんて」
「ルークから? ナタリアじゃなくてか」
「ええ、話したい事があるから茶会をしよう、と」
「何かあるのでしたら、お早めによろしくお願いしますよ。こちらも暇ではないのですから」

 ジェイドのデフォルトで嫌味が入った言い方を流して、ユーリは隣のルークを見る。最初言った時は、ナタリア開催の茶会っぽかったのだが。一体このおぼっちゃまは、何をするつもりなのか。
 ユーリの信用を使って、何か無茶な要求を通そうとしているのだろうか。それはいいが、あんまりにも度が過ぎるような事は勘弁してもらいたい。と言うか、ライマの関係者にユーリの評価がそこまで通用するとは自分でもあまり思えなかった、確かにエステル繋がりでナタリアとは多少面識はあるが、所詮その程度。恐らくアッシュ辺りには、自分の評価は低いだろうなと予想している。

 ルークは両手を膝の上でぎゅっと握り、意を決した表情で顔を上げた。視線は少しまごつき、うろうろさせて迷いを感じさせる。けれど数回瞬きをした後ナタリアの顔を見て、すぱっと言い切った。

「あのさ、俺ユーリと付き合ってるんだけど」
「まあ」
「ほほう」
「ぶはっ、ごほっ!!」

 ガチャン! と茶器が派手に割れた音が背後から聞こえるが、ユーリは噴き出した拍子に器官へ入ってしまい咽て動けない。背中を曲げて、胸をドンドンと叩く。両隣のジェイドとルークは一切手を貸してくれず、一人で必死に落ち着ける。
 何を言い出すんだこの奇天烈王子様は、と抗議の声を上げる前にルークの口からは次弾がどんどん飛び出していく。

「っていうか、一生の約束をした。死ぬ時は同じ墓に入るって決めたし、うん」
「まあ、最期まで同じ場所だなんて……」
「ユーリはガルバンゾで指名手配までされていますよ? 立場的に不味いと思いますがね」
「立場とかさ、俺全然気にしないし。っていうかどうでもいいし」
「忘れているようですが、こんなでもユーリ・ローウェルは立派な成人男性ですよ? ギルドに所属しているとは言えその日暮らしのようですし、貯金があるか怪しいのでは」
「その時は一緒に頑張ればいいんじゃね、食うモン無くなったら流石に働くだろ」
「だ、だれがこんなのでも、だっ!」

 やっと落ち着いてきて、ユーリの突っ込みが入るがあまり聞いてもらえない。ルークは普段細い瞳を大きく開き、ナタリアを真っ直ぐ見つめている。対するナタリアは少し驚いており、口元を手で覆っていた。時々ちらりとユーリを見てきて、ルークと見比べている。
 そんな訳あるか! そう大声で否定する前に、ユーリの背後で殺気がぶわりと広がり妙にドス黒く感じる低い声が邪魔をした。

「……ルーク、外に出て自分とタイプの違う同性に憧れる気持ちは分かる。でもユーリはちょっとばかり、頼りないだろう。いや、ヴァンならいいと言ってる訳じゃないんだけどな?」

 そうっと振り向けば、ガイが両手を後ろにやってユーリの真後ろに佇んでいる。表情は何時も以上に爽やかそうにしているのに、全身から出ている殺す意思が全く隠れていない。
 なんだこれ、とかなり本気の殺気を受けているせいでユーリの体は勝手に緊張する。ガイの両手が見えない辺り、牽制や冗談ではなく感じられた。これは絶対背後で剣を構えている。ユーリは傍らに置いている自分の剣紐を握った。

「まあそりゃユーリは大罪人だし甘味中毒者だし皮肉屋だしすっげーむかつくけどさ、好きになるってそういうのも纏めて好きってもんだろ」
「ル、ルーク! お前ただでさえトラブルを呼ぶタイプなんだから、余計苦労してどうする!」

 ルークの全くフォローしていない発言に、ガイは狼狽えている。前々からガイはルークの世話焼き甲斐甲斐しいなと思っていたが、この父親気味の発言から考えて根は深そうだ。
 ユーリは今度こそ抗議するために口を開こうとするが、その前にナタリアがガタリと立ち上がる。そういえば確か、彼女はルークの婚約者なのだ。いくら冗談でも、婚約者を目の前に男を連れて一生の約束だとか、大問題になるに決まっているではないか。
 だが、そのユーリの予想は大きく外れてしまう。もちろん、ユーリにとって悪い方向へ。

「ルーク、クレスとロイド以外に、そんなに深い縁を繋げられる人が出来たのですね!」
「え、……あ、ああ! その、ユーリとはちょー仲いい、ぜっ!?」
「何時もガイかティアを連れるか、クレスとロイドばかりでわたくし心配していたのです。折角沢山の人達と触れ合えるのに、選り好んでいるようでしたから……」
「我が王子様達は、揃って対人コミュニケーションが下手くそですからねぇ」
「いやいやいや、仲が良いのは結構だが、いいいい一生の約束っていうのは行き過ぎだろう!」
「あら、友好国になれば一生でしょう、いいじゃありませんか」
「え、あの……ナタリア、あのさ」

 ナタリアが妙に好意的で、ルークは最初に言い出した時より随分肩が小さくなっていく。隣のユーリは挟む口をぱくぱくと、背後で膨らむ殺気に邪魔される。

「あの、俺ユーリと一緒になるから、だからその……」
「ええ、分かっておりますわ!」
「ほ、ほんとか!」
「任せてくださいまし、ユーリのライマ永住権はわたくしから用意させますわ」
「まっ、待てよおい!」
「ちょっと待ってくれナタリア、ガルバンゾの犯罪者に永住権なんてそんな簡単に下りる訳ないだろ?」
「あら、ユーリの指名手配は事実無根なのでしょう? なら大丈夫ですわ」
「いやいやいやちょっと待ってくれおい、人の人生を勝手に進めないでくれるか!? オレはライマに永住する気はないぞ!」
「ですが愛人なのでしたら、ライマに住んでいただかないと」
「あ、愛人!? オレが! オレが!?」
「だって、ルークと一生を共にするのでしょう?」
「ナ、ナタリア……あの、あのさ。こ、婚約者も居るのに愛人とか、……体裁悪い、じゃん?」
「そうだぞ、他国で男なんて、俺は反対だな」
「まあ、そんな小さい事。わたくしは気にしませんわよ、国王となる人物ならば、多少傾奇者くらいがいいではありませんか。同盟国のとある方は、国王とも思えない破天荒ぶりで民に人気だと聞いておりますわ。確か……ジェイドの出身地でしたかしら?」
「……あの方はまた、色々別格なので参考にしない方がいいと思いますよ」
「いいいいいやでも! 陛下だって、愛人とか作ってないし、さー……」
「お父様達と同じ道を歩んでどうすると言うのです? 世界は刻一刻と移り変わっておりますのよ、民が変われば国は変わる、統治する者にも柔軟さが必要な時代なのです」
「し、信用が、その……」
「愛人が居ても納得させられるくらい、魅力的な人間だと思わせられるようになれば良いのですわ。貴方ならきっと出来ます、わたくしが保証しますわ!」
「ちょ、待ってくれっておい……。話が、話に付いていけねぇ……」
「ルーク、本気なのか? お前本気でユーリと付き合ってるってのか? ナタリアっていう婚約者が居るのに?」
「子供のようなおままごとの付き合いでしたら、浅い段階で辞めておいた方が良いですよ」
「浅い段階って言うかその浅瀬すら辿り着いてねーぞオレは!」
「ユーリはちょっと黙っててくれるか、なあ……」

 ユーリの抗議にガイはちらりと刃物を見せて、ドス黒い笑顔で圧迫する。いやいやここは何としても、ルークの悪い冗談だと言い切らなければ自分の身が危ない。元々評判を気にする質ではないが、いくらなんでも王子様の愛人だとか、鳥肌が立つ以前に恐ろしい話だ。
 だがまたしても、ユーリが口を挟む前にルークが大声で、半分自棄になっている雰囲気で叫ぶ。それを聞いたユーリは、この場の席に着いた事を一生分後悔した。

「全然浅い付き合いじゃねーよ、さ、最後まで全部やった! そりゃもう1から100まで! ねっとりと!」
「ねっとりと!」
「100ってなんでしょうかね、普通Aからじゃないんですか?」
「ルーク、婚前交渉ははしたないですわよ! ってユーリは愛人ですものね、いいでしょう」
「よくない、よくないだろちゃんと脳みそ通してくれ!!」

 ユーリは遂に我慢出来ず立ち上がり、今すぐルークの口を塞ぐか自分は全く関係無いと大声で叫ぼうとする。だがすらりと、顔の真横に白い刃が伸びてきた。当然ガイが、びしばしと殺気で心臓を射抜こうと言わんばかりの強さで背後から。いいやここは貫かれても言わなければ、自分の評判に関わる。
 口を開こうとした瞬間今度はルークの手がばしんと、ユーリの顔面を思い切り叩いた。

「……一生の恩!」
「おま、あれは一生じゃなくって100ガルド分だろ!」
「ユーリ、ルークが発言している時は黙っててくれるか……?」

 ぴたぴた、と刃で頬に触れる。このライマ関係者ばかりの裁判所に、自分の立場は最初から無かったのだ。なんという罠、知っていたのならばユーリは最初から了承していなかった!

「だからぁ、俺はもーユーリと一心同体になっちまうくらい絡み合って融け合って二対の木みたいに離れられないんだよ! ナ、……ナタリアが入り込む隙間は無いんだ!」
「構いませんわよ、王の大いなる博愛を認めるのも正妻の義務です」
「どんな義務だよ聞いた事ねーぞ!」
「か、からみあ……! とけあ……っ!?」
「ライマは一応、一夫一妻制なんですがねぇ」
「確かに、愛人が女性でしたらわたくしも少し考えてしまいますけれど……。異性であるわたくしがフォロー出来ない部分を任せられる、という点ではユーリはとても頼りになると思いますわ。エステルがとても良く言っていましたもの」
「……ユーリ、ルークと一生の約束をしているってのに……、エステルにも良い顔をしているんだな……」
「違う、色々全面的に違う! オレの話を聞け!」
「一体どっちが本命なんだ、まさかルークを愛人にしてエステルを正妻に結婚するつもりなのか!?」
「ほほお、それはまたとんでもない国家間を跨いだ計画ですね」
「ワールドワイドですわね、今の世界には必要な考え方だと思いますわ」
「あ、ナタリアぁ……」

 何故か納得していくナタリアに、肩がしょげていくルーク、絶対に分かっていて面白がっているジェイドに、父親面なのかルークに恋愛感情があるのか微妙によく分からないガイ。
 ユーリは今すぐ、この船からも降りたくなった。もう全て捨てて、世捨て人になりたい、チーズ蒸しパンになりたい。自分はどうやらルークの謎の企みに巻き込まれ、大きな失敗にも巻き込まれているようだ。こんな状態、100ガルドの恩で賄える訳があるか! というか親友でも冗談ではない話だ。

 今すぐルークにこの話はただの嘘で冗談だ、そう言わせようと振り向けばぞくりと予感が走る。本能に従い飛び退けばガチャンと自分が座っていた椅子が真っ二つ。
 犯人に間違いないガイを見れば、表情から笑顔が完全に消えていた。普段爽やかな人物が表情を無くせば、恐ろしさが増幅される。迸る殺気も合わせてユーリは背中に冷や汗を感じた。

「……ルークは俺が10年以上隣で見守って育ててきたんだ、乳母よりもシュザンヌ様よりも世話してきたと自負している。だからそれなりに信頼されている自信はある、だからこそ……そんなルークの純粋さに付け込んで騙す輩は我慢ならないな!」
「お前は父親か! だから違うって言ってるだろ、誤解だ!」
「誤解? ルークがここまで自分ではっきり好きだと言った事なんて初めてなんだぞ……それを誤解だって? じゃあユーリはその誤解を利用してルークを弄んだって事なんだな!?」
「違うっつってんだろ人の話聞けよ! オレとルークがそんな関係な訳な……いてぇ!」
「一生の恩!」
「お前いい加減にしろよこんなの足が出る所じゃねーよ!」
「そうか、そうかじゃあユーリ・ローウェル……。言い訳してもらおうじゃないか、たっぷりと。……地獄でな!」
「待て、うおおっ!?」

 素早いガイの動きが、本気で剣を奮ってくる。ユーリは鞘でなんとか受けるが、物が多い展望室では思うように対応出来ない。ばたばたと部屋中を駆けまわり、がちゃんばたんと椅子やコップを破壊していく。

 ガイは普段の冷静さを完全に無くし、プッツンしていた。言動から見るに恋愛感情よりもどうやら保護者、育ての親という意識が強いのが余計に面倒だ。ただ好きなのだとすれば、そんな関係じゃないと言えば収まるだろう、多分。だが保護者意識がある分ルークへの信頼が強い、ユーリの言葉よりもルークの言葉を信用すると想像が付いた。
 これはもう、ルークからの言葉でなければ説得は無理だ。なのにちらりと見れば、ルークはがっくりと机に突っ伏している。何を項垂れているのか知らないが、落ち込む前にこちらの処理を何とかしてくれ! そうユーリは叫びたかったが、ガイの容赦無い剣撃が次々と飛んでくる。
 お互いスピードタイプではあるが、本気のガイの方が上回っていた。このままではジリ貧になってしまう、今すぐこの場から脱さなければ。だが昇降階段はどうしても隙が出来るし、言葉の説得は無理そうだ。
 ナタリアとジェイドも、我関せずとのほほんお茶を飲んでいる。ライマの人間は酷い、人非人。ユーリはそれをしっかりと魂に刻み込んだ。








inserted by FC2 system