29///天使はいたんだ9 |
近頃のルークは飽きていた、翼にではない、船内の生活にだ。一応自分が普通の人間とは離れた形状になってしまった自覚はある、なのであまり街には行っていない。それでもまぁ外やダンジョンには問題なく出歩けるのだから構わないと思っていた。切除の痛みよりも少しの不便を選択したのだ。
しかしこの望みを叶えるには、かなりハードルが高い。まずティアとアッシュが、見ていないようで地味にきっちり見ている。一人出歩こうものならばすかさず声をかけてきて、トイレだと言っても本当にトイレかどうか疑って付いて来る。俺ってそんなに信用ないの……とちょっぴり傷付いたが、実家に居た頃その手を使ってしょっちゅう抜けだしていたのだからまぁ自業自得かも。
これではいかん、とルークは作戦を立て始めた。それが少し前の話。
*****
その日ユーリは、食事当番だった。バンエルティア号の食事当番は過酷だ、何しろ総勢80名近くの食事を作らなくてはならない。勿論全員が全員、食堂で食事をする訳ではない。依頼で出ている者、外食する者多々。けれども半分近くはやはり食堂を利用するので、どちらにせよその忙しさは戦争に近い。下準備も調理も、朝から晩まで拘束される。それをクレアやロックスは毎日やっているのだから、感謝するしかない。
そして今日のユーリの当番は、そんな××料理人と当番になっているのだ。それを朝から、どよーんとした顔で憂鬱そうに言っていた。ルークはこれを、チャンスだと考えている。ちなみにルークは翼が生えてから、食事当番は免除されていた。羽根は落ちなくなったが動く度に翼で立て付け戸棚を破壊し、キッチン内で羽根の端っこを焦がし大騒ぎになったからだ。
エントランス、アンジュの前を自然に横切る。心の中はどきどきしっぱなしで、緊張に汗をかいていた。けれどもルークは案外本番に強い。アンジュが目を留めどうしたの? と声をかけてくる。声を震わせぬよう、努めて自然にルークは返事をした。
「なんか構ってくれる奴いねーし、甲板で日光浴」
それに少し頬を赤らめ、ルークは駆けて外へ出た。甲板にはセルシウスも居ない、調査通り! 前頭部にシーツがばたばたはためいて気持良さそうに空を泳いでいる、それを見てルークは羨ましくなった。ただの布っ切れですら空を掻いでいるのに、自分の翼はまだ一度も鳥のように優雅に羽ばたいていない。以前試した時は色々と知識不足だったのだ、今やればきっと上手くいく……はず。
しかしその時計塔を想定していた全く別の状況で見る羽目になるとは、この時のルークは思いもよらなかった。 ▲ |
30///天使はいたんだ10 |
朝から地獄だ、ユーリはほとほと疲れている。なにせ料理当番のメンバーに、あのアーチェが一緒なのだ。彼女は見た目以上に長く生きているくせに、味覚がぶっ壊れているのではないかと疑うレベルの××料理人である。
光を消したロックスを横目に、ユーリはなんとかアーチェをキッチンに入れまいと必死な攻防を続けた。下処理を中心にやらせていたのだが、地味な作業に彼女はすぐ飽きる。それをなんとかだまくらかして上手いこと言い包め、なんとか朝食は無事に終わった。ユーリはもうこれだけで疲労が濃い、さっきまで昼食用の下処理でまた一バトルやっていたので特に。
そう頭の中で思い描けば、現実でもしたくなってきた。ユーリはがばりと起き上がり、素早い動きで部屋を出る。この後はまたすぐに昼食の準備をしなくてはならない、なので今を逃してしまうと時間が無いのだ。癒しを求めてユーリはルークに会いに行った。
***
「ルーク? 甲板で日光浴するって言って出たわよ」
部屋に行っても誰も居らず、隣を覗いても同じ。なのでユーリは手っ取り早くアンジュに尋ねると、あっさりと答えが返ってくる。翼が生えてからルークは日光浴がお気に入りで、よく甲板で羽根干しをしていた。ぽかぽか暖かくなって寝てしまうのだが、本体である人間の都合を忘れてよく干からびるのだ。一度やってからはユーリも注意して見ているのだが、今日も同じような事になっているのだろうか。
先に食堂へ水を持っていくか? とも思ったが、今日一日は食堂に籠もるのだから後回しにしようという思考が働く。まず先にルークの羽根に埋もれよう、そう思ってユーリは甲板に出るが……誰も居なかった。
バンエルティア号のこんな目と鼻の先で誘拐……、なくは無い。だが割合としては半々だろう、自分の意思で降りた可能性の方が高そうではあるが。ユーリは急いで船内に舞い戻り、アンジュに話をつけた。
*****
一番近くの街に着く。手にはいくつかの羽根、道中拾ったものだ。そしてやはり街の入口街門に、真っ白い羽根を見つけて確信する。ルークは何の用事があるのか知らないが、一人でこの街に来ていると。どうせいい加減船内生活に飽きただとか、そんな理由なのだろう。きちんと言えば何かしら手段を講じるのに、また思いつきで行動したとかそんな辺りに決まっている。
時々見かける白い羽根に導かれるように、屋台や広場を回る。だが欠片ばかり見つかって、肝心の朱金がどこにも居なかった。
焦るユーリは一度船に戻りルークが帰っているか確認するか、それか人手を借りようか迷う。もしも帰っているならば時間の無駄だが、まだならばもっと捜索効率を上げたい。この街は中央に大きな教会とシンボルらしき時計塔が建っており、そのお陰かは分からないがそれほど戦争の被害を受けていなかった。こういう街は裏通りにいくつも隠しルートがあるのが定石であり、余所者一人では限界がある。
ゴーン……ゴーン……ゴーン――
街中に響き渡るような、大きな鐘の音。この街でそんな音を出しそうな施設は、教会にある時計塔くらいだろう。集会か何かでそんな事もあるだろう、そう思ったが周りを見るとどうもそうではなさそうだった。
「こんな時間に、どうしたのかしら?」
ざわざわと集まって、皆不思議そうに話している。どうやらあの教会の鐘は朝以外は鳴らさないようで、街人達もどうして今鳴っているのか、分からないらしい。
もしも違っていたら、アドリビトムとして問題かもしれない。だが何となくユーリは予感を覚え、空に突き刺している時計塔へと走りだした。 ▲ |
31///天使はいたんだ11 |
「はいよ、ホットドッグだよ!」
屋台の人間の引き攣り顔を後にして、ルークはベンチに座ってホットドッグをぱくぱくと食べ始める。修行の旅に出てからこうやって屋台で味わった物は、実家で食べていた物に比べてとにかく雑で味が濃くてぶっちゃけて言うとマズイの一言だ。最初は物珍しさから食べていたが、あまり量を食べれる品ではないと思った。バンエルティア号の食事は豪勢さは無いが、栄養はそれなりに考えられている。ただ色んな地方からメンバーが集まっているので、少々味にばらつきはあった。その為何種類用意するという手段を取っているのだが。
ルークは背中の翼を、嬉しそうにぱたぱた羽ばたかせる。街で一人、買い食いをして羽根も文字通り伸ばせるだなんて最高だ。機嫌は最高潮に達して、ちょろちょろと近寄ってき始めた子供達にガンつけ飛ばすのも止めておこうかな、と言う気分。
「ねーねーお兄ちゃん、お兄ちゃんって鳥さんなの?」
子供達はどうして人間に翼が生えているのか、と言う点には疑問を抱かず純粋にすごいすごいと賞賛を口々に上げる。ルークの鼻は気分的にどんどん伸びて上がっていき、普段は無視する子供達に背中を向けて、自慢の翼をばさり! と大袈裟にはためかせた。
「すっごーい、真っ白で綺麗〜!」
子供達から上がる言葉は段々ルークには手が追えないくらいに重くなっていき、思いがけず追い込まれる。自業自得とは言え、マントも何も羽織らず翼を出しっぱなしにしておいたツケが回ってきた。取りに戻るのが面倒だからと言ってそのままにしておくのではなかった! ルークは今更ながら後悔する。
「これこれ、何をしているんだい?」
神父服を着た、50代くらいのおっとりした男。子供達が少しバラけるが、ルークの翼を子供の無遠慮さで掴んで離そうとしない。神父は翼を見て目を細めた後、子供達に優しく諭すように言った。
「天使様が困っているでしょう、およしなさい」
この街では教会の教えは深く浸透しているのか、子供達はあっさりと手を離す。神父に一言二言言われて、家に帰るのか駆けて行った。やっと行ったか、とルークは安堵の溜息を吐く。
「ところで貴方は……本当に、天使なのですかな?」
先程の子供達の事もあって、そう大声でルークは誤魔化す。周りの人間も聞き耳を立てていたようで、その言葉にあからさまがっかりと肩を落としているのが見えた。だが神父は柔らかく笑い、関心しながら聞いてくる。
「装備品、ですか……。とても精巧な造りなのですね」
面倒臭い、と正直に言おうと思ったが子供達を追い払ってもらった手前、教会に行くくらいは付き合ってやってもいいかなと思った。それにこの神父がライマを知っていたという事も、何となく嬉しい。ライマは神父が言ったようにこの土地からは、一大陸分は離れている。地図の上でもそう大きな国でも無し、古いだけが取り柄のライマを知っている者はあまり居ない。だから少しだけ、ルークはこの神父に気安さを抱く。
「じゃあ、ちょっとだけ見てやっかなぁ」
ここは少し北寄りの大陸なので、開いた背中が寒い。それを翼ごと被せるように、神父が持っていた紺色のマントが掛けられた。そして二人はそのまま、教会へ行くことになったのだ。
***
バタン、と教会の重い扉が閉まる。ルークはキョロキョロと礼拝堂を見回し、ライマとはまた違った形式の建物を珍しそうに見つめた。ガチャン、と締まる音が聞こえて振り向けば神父が柔らかなそうな笑顔で、ルークのマントを肩から脱がし取る。人に従事される事に慣れているルークはそのまま黙ってやらせておくが、ふいに背中からブチッと衝撃が走った。驚いて振り向けば、神父の手には数枚の羽根が握られている。それにカッとなってルークは怒鳴った。
「いてぇ、何しやがる!」
羽根は毛ではないが、根本の辺りを抜かれると本当に痛い。最近は特にあちこちぶつける事もなくなってきていたので、羽根を抜かれる痛みは久しぶりだった。ルークの的確な表現に共感したのか、神父は申し訳なさそうに謝ってくる。それに唇を尖らせ、抜かれただろう翼を撫でた。
「それにしてもやはり……その翼は本物なのですね?」
元からあまり誤魔化せていたとは思えないが、簡単にバレてしまいルークはたじろぐ。しまった、どうしよう。もしやまた先程の子供達のように何か願われるのだろうか……。ライマの権限は今ルークの手には無く、そもそもこんな遠い土地で権威も何もあったものではないだろう。
「やはり……天使の一族だったのだな」
急激に態度を裏返した神父の表情は憎しみに溢れ、先程まで微笑んでいた欠片もない。懐から大きな十字架を取り出したと思ったら、隠しナイフだったようできらりと刃が光っている。ルークは慌てて足を蹴り、そのナイフを跳ね飛ばした。
「なめんなっつーの!」
天使がそんな事をしているなんて事も知らなかったのに、翼があるからと言って責任を要求されても困る! だからそもそも自分は人間にただ翼が生えているだけなのだ、そう大声で言っても神父は頭に血が昇っているのか全く聞く耳を持たない。
「ったく、人の話を聞けっての!」
本当の殺気に当て慣れていないルークは神父の気迫に気圧され、額に汗と激しい動悸がうるさい。剣は持っているが一般人、おまけに神父相手に振り回す気にはなれなかった。とにかく今は逃げるべきだ、そう決めて左のドアに手を掛け……る前に開く。
「なっ!?」
ルークの頭二つ分は高い体のゴツそうな男がのっしりと出てきて、驚いて固まってしまった左手首をがしりと掴む。それにハッと気付き、ルークは左足を軸に蹴りを放った。バシィン! と甲高い音が礼拝堂内に響き渡るが、衝撃を受けたのは……ルークだった。
「こんの木偶の坊が!」
瞬間、軸足の左で蹴って金的蹴りを命中させる。四肢を空中に投げてしまったが、男は無様な悲鳴を上げてすぐにルークの手足を離してしまう。同時に崩れ落ちて床に投げ出されたが、ダメージはどう考えてもあちら。ざまあみろ、と心の中で唾を吐いて立ち上がろうとした所に、ふっと目の前が暗くなった。
「天使め、神罰を受けろ!」
ガツッ! と神父が見るからに重そうなマリア像で殴りかかり、ルークの頭を直撃した。大きな衝撃はそのまま脳を揺らし、抵抗する暇も無く意識の電源を落としてしまう。痛みを感じる前にブチッと全ての情報が途切れて、ルークは自分の羽根がひらひら舞う雪のような光景を最後に見た。 ▲ |
32///天使はいたんだ12 |
ズキリと、神経に触る痛みで目が覚める。ふと視界を広げると、世界は転がっていた。いや転がっているのはルークで、どうやらどこかに閉じ込められているらしい。蘇ってくる頭の痛みに体をよじらせるが、手は背中で縛られ足も縄でしっかり縛られていた。
どこかの部屋で埃っぽく、あまり物は無い。レンガ壁は妙に古臭く、目の前の扉はここだけ建て替えたのかピカピカしている。ぐるりと見回すが、電灯が無いため全体的に薄暗い。だが所々隙間があるのか外の光が差し込み風がびゅうびゅう吹き込んでいた。そのせいで体が冷えている。幸いにも翼は傷付けられなかったようで、ルークは羽根をばさりと広げて纏い少しでも暖を取った。
「ちくしょう、あのクソ神父〜」
負け惜しみでボソリと呟いても、しんと静か。漏れてくる光で夜になってない事は分かるが、このままじっとしている訳にいかない。早く帰らなければ、誰かルークが居ない事に気付く人間が出てくるだろう。というかおそらく、そろそろユーリが気付いてもおかしくない。ガイがまだ合流していない今、彼が従者代わりだ。まあ従者と言うにはユーリはあまりにもルークの言う事を聞いてくれないが、最近ではそれが面白くなっている。
「へん、あんな奴全然怖くねーし! は、羽根をあぐあぐされても……うう、ぶるぶるっ」
強気で口にするが、自分で言っておいて後半震えてしまった。ユーリのお仕置きは容赦が無い、ジェイドも容赦が無いが別軸での恐ろしさだ。ルークは寒さではなく恐ろしさから体を震わせ、なんとしても早急にここを出る事を決意する。
一先ず手足が使えないのは不便で仕方がない。ルークは背中で縛られている手をなんとか伸ばし、ベルトの剣留めに触れる。当然持っていた剣は没収されているようだが、今探っているのはそちらではない。
「ふぅ、双子の王位後継者舐めるなっての」
ルークはやっと自由になった手足をぐんの伸ばし、どこにも異常はないかチェックする。どうやらあの後暴力をふるわれた痕も無いようで、翼も撫でて確かめた。それにホッとひと安心……するも、次はさてどうしたものかと部屋を見回す。
「うるせぇぞ、大人しくしやがれ!」
どうやら扉のむこうに、きちんと見張りがいるらしい。仕返しなのか扉をガン! と蹴って大きな音を閉じた部屋中に響き渡らせる。見張りも居るとなると、突破は難しくなった。だからと言ってはいそうですか、と諦められる訳でも無い。ルークはう〜むと唸りながら、部屋をぐるぐると歩きまわって考える。
となると、あの出口……開くかもしれない。鍵穴らしき箇所は見えないし、普通ならばジャンプしようが届きそうになく、踏み台も無かった。確かに普通ならば無理だろうし、以前のルークでは諦めて助けが来るのを待っていただろう。だが、今は違う。何しろ今のルークの背中には、真白い翼があるのだから。
ルークは少し考え、部屋の隅っこまで歩く。なるべく音は立てず、失敗は無し。埃臭い中なのは気に入らなかったが、深呼吸をして頭の中でイメージを強く描く。あれから翼はかなり細かく動かせるようになったし、飛ぶコツもコレットに何度も教えてもらった。
「……っし!」
喜びたい感情を何とか抑えつけて、ルークの足は翼の羽ばたきによって軽やかに着地する。壁を蹴った際の音はどうしようもない、単に悔しくて暴れているのだと勘違いしてくれている事を祈った。ルークは先程でコツを掴み、再度三角飛びから天井の出口に手を掛け、這い上がる。一番苦労したのは、その隙間に羽根を通す時。思った以上に狭く、足場も無いため中々苦労した。無理矢理翼を通したせいで床に結構な量の羽根を散らしてしまったが、脱出さえできればいいのだ。
「おい、天使の野郎が居ねぇぞ!?」
「やっべ、もうバレた!」
登っている途中、下から怒鳴り散らす声。途端に静かになったのを怪しまれたのかそれとも今から痛めつけるつもりだったのか、どちらにせよ間一髪だったのか。いやまだ危機は脱していない、とにかく急いでこの梯子を登りきらなければ。
「ぷはぁ!」
風の音がやたらと激しく聞こえ、雲が近い。ルークは出入口を閉じ、立ち上がって自らの重みで蓋をする。するとそこからの景色は、驚くべきものだった。
「……うっそ、だろ」
街並み全てが、下に遠い。斜めに沈み始めている太陽が近く大きくて、鳥達の姿すら上から見下ろす高さ。自分に影が囲っている事に気付き上を見れば、大きな鈍色の鐘があった。もう一度下を見れば、自分が神父に案内されて入ってきた教会の屋根が見える。どうやらここは時計塔、鐘が設置されている最上段のようだ。
ぐだぐだと考えていると、足にずきりと鋭い痛みが走る。驚いて飛び上がり足を退けると、床の扉からナイフが突き刺さっていた。下から刺したのだろう、それが運悪くルークの足を掠り傷付けたのだ。幸いにも中心ではなかったが、靴を切り裂いてずきずきと痛む。足の身まで達してしまったかもしれない。
「ちっくしょ……!」
痛む足で立ち上がるが、ここ鐘突き場では逃げ場なんてどこにも無い。きょろきょろと見回しても、答えるのは近い雲だけ。あの雲に乗れれば言う事無いのだが、流石にこんな場面で夢を見れる程馬鹿ではなかった。
バン! と大きな音で床の扉が跳ね跳ぶ。そして下から出てきた男は、礼拝堂でルークが金的蹴りを見舞ってやった顔だった。相当頭に来ているのかそれとも復讐か、トマトのように真っ赤な顔で額にはビキビキと血管を浮かび走らせている。
「天使様よぉ、大人しくしとけばいいものを……。どうやらよっぽど痛い目にあいたいらしいな」
売り言葉に買い言葉で、男の血圧を最高まで上げてしまったらしい。男は無駄にでかい体を引っ掛ける事無く出て、手には反しの目立つ短剣を握っていた。あれは切る用の刃ではなく、肉を切り裂いてぐちゃぐちゃにする為の刃だ。
どうやってこの状況から、バンエルティア号に帰ろうか……。焦る頭の中で浮かんだのは、そんな事。そして同時に、このままではユーリに怒られてしまう! という危機感だけが場違いに募っていた。 ▲ |