17///嫌われると好きになっちゃうルーク |
*色物注意
大変だ、あまりの事にルークの息は切れた。全力疾走で廊下を駆け、途中投げつけられた注意も聞こえない。自分に充てがわれている部屋前でキキィとブレーキを、バン! と叩いて扉を開けた。中にはガイが驚いた顔で、手元に何か小さな機械を弄っている。ルークは勢いをそのまま、ダカダカと入ってその機械をぽいとベッドへ捨てた。ああっ!? と悲痛な声を上げるガイの首根っこを掴み、驚愕をそのまま言葉にする。
「ガイ、どうしよう! 俺ユーリにすげー馬鹿にされてすげーきゅんってきたんだけど!!」
ルークは思い出したのか、頬を紅潮させて胸元の服をぎゅうと握りしめる。その頭がだんだん下がって、ベッドへぽふりと倒れこんだ。ガイは呆れを含んでその様子を見るが、ついにはぷるぷると悶え始めている。
国を離れてアドリビトムで世話になる事になり、ここの人間は基本的に善人が殆ど。だからルークがそう目を引く事など無いだろうとガイは思っていたが、とんだダークホースが居たものだ。ユーリ・ローウェルの評判はそれなり、ただ貴族嫌いなのは聞いたが連れているエステルこそ王族なのだから言う程嫌いではないのだろうと、ガイは予想して放っておいた。
「あーやべー、明日どうしようエステルと依頼の約束しちまったよユーリ来るかな? 一緒のPTだったらどうしよう俺普通で居られる自信がないぞ!」
ルークは両手で顔を覆い、ぶんぶんと頭ごと振り回す。耳たぶまで真っ赤で、ああこれは久しぶりに本気で惚れたか、とガイはユーリに同情した。
「ど、どうしようガイ! 久しぶりだからなんかこう、おおお抑えらんないんだけど!?」
ルークが最後に相談してきたのは1年程前の、ティアの護衛が就いた時だ。基本的にティアはナタリア付きだが、ルークを護衛する時もあった。彼女のクールであろうとするスタイルから、ルークはしょっぱなきゅんとしたらしい。調子に乗らないで! と強く言われる度にドキドキして膝を突きそうになったとルークは言うのだから、本物だ。しかしルークが意識して付き合っていく内に、あれは嫌ったり冷たくしている訳では無いと分かってその上態度も軟化したので、いつの間にか消え失せてしまったらしい。
対象からすれば、良い関係を築き上げたと言っていいだろう。だが全てを知っているガイからすれば、ルークの性癖の残骸……そんな暴言が思い浮かんでどうにも微妙な気持ちにさせる。ライマ国内で済ませておけば最低限もみ消せるが、無国籍ギルドのメンバー相手についにやってしまった。
「はあー、やっべーじっとしてらんない、今から会いに行ったら迷惑かな? 邪魔すんなとか言われちゃう? マジで言われたら俺鼻血出しちゃいそうなんだけど!」
そもそもルークのこの性癖の原因はアッシュで、そのくせアッシュは未だにこの事実を知らない。なので知らずにルークを罵倒して悦らせているのだから、この双子はよく咬み合っているものだ。
「ユーリの皮肉ってなんか切り口斜めなんだよなー、もっとジェイドみたいにバッサリやってくんないかな? でもこれはこれで、じわじわなぶられてる感じがして好きなんだけど」
好きになったのだからしょうがない、何度か窘めても結局今まで治らなかった。これはもうルークの一部として付き合う他ないのだ、と兄貴分としては取り敢えずルークの身の無事を祈るだけ。そして同時に生まれる、新たな犠牲者にガイは南無南無と空に拝んだ。 ▲ |
18///嫌われると好きになっちゃうルーク2 |
*色物注意
ルークがユーリを好きになって、もうそろそろ時期だなとガイは考えている。一人部屋で小型機械の修理をしながら、ひーふーみー、と日数を思い出す。あの日を境にルークはユーリの後を付け回して追いかけて纏わり付いて、大体1ヶ月。今までの経験上もうそろそろ関係が変わってくるはずだ。今回は久しぶりで、ライマ以外の人間だという事がルークをより燃え上がらせて行動的にさせている。キラキラした瞳と染まる頬を前面に押し出して、時間があれば何時でも視界の隅に収まっていようと傍に居続けるのだ。直接好きと言わないあたりがより悪どい、もとい上手い事やっている。
「……がーいー……」
そこへ主がゾンビのような声を上げて部屋に帰ってきた、見るも無残に意気消沈している。この様子は何時ものアレで、やっぱりユーリも例に漏れなかったかとガイは溜息を吐く。ルークはのっそりした足並みで時間をたっぷりかけてベッドまで辿り着き、ばったりと体ごと倒れこんだ。
「どーした、今日はユーリと一緒に依頼に行ってたんだろ」
ルークは頭を抱えてジタバタと、陸で泳ぐなんて器用な事をしている。うわああああ! と悶え叫ぶ、1ヶ月前とは正反対の意味で。
「なんかー、ユーリちょー優しいんだよーすげー笑い返してくれるしー! 依頼に出たら弁当作ってくれてるしー中身俺の好物ばっかりだしーシャレになんないくらい美味いしぃー!」
どうやってその状況を脱したのか非常に気になったが、恐らく多分、無事なのだろう。しかしユーリ側からすれば想像しただけで可哀想で、ガイは涙を禁じ得ない。自分に対して絶対好きだろうという態度をずっとしてきた相手に告白したら拒否される、前世でどれだけ残虐行為を働けば今世でこれ程の罰を受けるのだろうか。
「……どうしよう、ガイ。俺ってすごい酷い奴? ごめん無理って言った時ユーリすげーヒビ入ってた」
舌まで入れられて、その時点でガイは噴いた。モテる男の秘訣は優しさの中にも強引さらしいが、中々ユーリは忠実にモテ男のようで。ルークはバタ足を止めてシーツに突っ伏し、頭をぐしゃぐしゃに掻いて乱している。その声色がガイの想像以上に弱っていて、これは新しいパターンだと眉を潜めた。
「……その、今までは軽く触れるだけだったから。急にそんな、なんかエロかったし……。心臓が飛び出そうで、どうしたらいいのか分かんなくって」
分かってて受けていたとは、これはどうにも。ちょっとばかり真剣に、今までと違うのかもしれない。ルークの言動も態度も、過去を例に見れば例外しかない。
「ガイ、どうしよう。ちゃんと言った方がいいかな、俺変態だから無理って」
今度は急に、うじうじしだしたルークにガイは驚きを隠せない。ルークは自分の性癖を異常とは思いつつも恥じてはいなかった、なのにこんな風に言うとは。 ▲ |
19///八重歯というオプションに萌えてみる |
*萌え属性的な意味での八重歯
「近寄るなよ大罪人が! お前自分のしでかした事わかってんのか!」
話に聞いていたライマ国の王位継承者殿は、初対面で人を大罪人呼ばわりする大変お育ちの宜しい人物らしい。突然イチャモンを付けられたが、それにしてもガルバンゾからの王女誘拐嫌疑が遠いライマまで広がっているとは思わなかった。確かにガルバンゾは大国だが、王女誘拐なんて大事件をそう簡単に国外に持ち出すものだろうか、下手すれば自国騎士団の恥にも繋がりそうなものだが。もしや騎士団達の個人的な恨みで広まった……なんて流石にないか。
「おい、お前聞いてんのかよ!」
歯並びの少し左側、1本の歯が尖って伸びているのだ。口を大きく開けていたのでよく見えた。そうぽつりと口を零せば、相手は目をまん丸く開けて驚き両手で口を塞ぐ。大きく開けた瞳はいきなりイメージが変わって、妙に子供っぽさを前面に押し出した。そして顔が一気に耳まで赤くなる、その反応にユーリの方こそ戸惑う。
「な、なんか文句でも……あんのかよ!」
両手で抑えているのでもごもごさせているが、噛み付いてくる態度が余計に犬のようだ。むしろ犬じゃない、と言ったせいでユーリには最早そうだとしか見えなくなった。だが別段、犬でもいいのではないか。ユーリには身近にラピードが居るし、そういえばギルドの古参であるカイウスだって犬だ。いや本人にそう言えば怒るだろうから言わないが。
「別に、犬でもいいんじゃないの。狼だって牙生えてるし、格好良いだろ」
そう何の気無しに言えば、相手の目はもっと大きくなった。今度は驚いた後何を思ったのか、じっと強く見つめてくる。それに妙な居心地の悪さを感じて、ユーリはたじろいだ。
「……か、格好良い、か?」
正直にそう言えば、瞳の翡翠色がやたらとキラキラしている。顔の赤みは引いたが、頬はまだ興奮しているのか残っていた。相手はバンバン! と突然ユーリの肩を叩いてきて、鼻息荒く嬉しそうに喜びだした。
「お前、中々分かってるじゃねーか! そーだよな、牙、格好良いよな!」
さっき大罪人、と呼んでくれた事はもうすっかり頭から消え去ったらしい。ルークは嬉しそうににかっと笑い、尖った八重歯を見せている。それがなんだか、下町に居た悪ガキのようで妙に似合っていた。可笑しいな、ついさっきまでは正反対だと思っていたのに。
*****
「んぐ、……ぅ」
少しうるさい言葉を吸ってやれば、ルークの肩はすぐに硬直する。背中に回した手で耳たぶに触れればぴくりと小さく跳ね、薄っすら開いて確認すれば真っ赤になった表情が映った。ぎゅっと固く瞼を閉じて、何度交わしても慣れなさそうな反応。それが面白くて、ユーリは毎回突然にキスをする。
二人きりの時はその欲望に正直に、唇を吸うと言うよりか八重歯を舐める。本人の口から出る言葉とは正反対に大人しくなってしまった唇をこじ開けて、歯列を舌でなぞり特に八重歯を念入りに。そうするとルークの体はビクビクと殊更激しく反応して、すぐに体の力を抜いてしまう。
「……ーり。お、お前……っ。あんま、……やるなばかっ」
図星を突かれて、ルークは真っ赤な顔をもっと真っ赤にする。だからと言って追求を止めてしまう辺りが、ルークらしくてツメが甘い。目をきょろきょろさせて戸惑い、半開きの口から見える八重歯がどうしても注目を奪う。濡れた唇が余計に誘っていて、ユーリは再度そこへと蓋をした。 ▲ |
20///いやなはなし |
ファブレ双子とジェイド
「大体貴様は何も考えてなさすぎる! こっちがどれだけ尻拭いをしてきたと思ってやがるんだ!」
わいわいぎゃあぎゃあ、今日もファブレの双子は絆を深めるのに余念が無い。きっかけがあればどんな些細な事からでも繋げてくる、その連携プレーは見事と言えよう。けれどそのコースは何時でも決まりきっている。始めは政治を絡めた内容でも、応酬を続けていけばどんどん下らなくなっていく。最終的には子供の頃の恨み節を持ちだしてあーだこーだ、これをティアかガイが止めるまでやり続ける。
「毎日毎日飽きもせず、貴方達双子は本当にどうしようもないですね」
突然のジェイドの質問、それは余りに突飛で二人の思考が止まる。けれどそれ自体は前々からそんな事があればいいな、とルークは思っていたので嬉々として答えた。
「勿論べったべたに甘やかして可愛がる! アッシュみたいな可愛くない弟はもうやだ!」
始まった、またこれだ。ジェイドは眼鏡のブリッジを上げてにこやかに笑い、できるだけ穏やかに告げる。
「つまりお二人の良い所を集めて一つにすればいい、という事ですよね。そんな貴方達の為にお二人の遺伝子を掛け合わせて新たな生命を誕生させましたよ、喜んでください。名前は一文字ずつ取って「アール」です。性別は男だとか女だとか、今のご時世どちらでもいいですよね? そんなお二人の意見を尊重して両性具有にしておきましたから!」
流暢にすらすらと、ノンブレスに高速詠唱で鍛え上げた早口がなんとも聞き取りやすい。一文字漏らさず聞こえたその内容に、ルークとアッシュは呆然と固まる。
「え? ……う、嘘だよな?」
はっきりと嘘で冗談……だよな? と希望を込めて尋ねても、ニコニコと笑うその顔が怖い。目も口もちゃんと笑っている、だからこそ怖い。ジェイドは真剣に笑顔と真顔両方で嘘も冗談も残酷な真実も告げる人間なのだから。
「さて、このアドリビトムの科学者達の協力を仰げばその冗談も冗談で無くす事が出来ますが……。どちらがいいですか?」
例え嘘でもジェイドの口から出れば本当になってしまうのではないか。そんな得も言えぬ恐ろしさを感じさせる、それがネクロマンサージェイド。二人は冷や汗を垂らして手を取り合い、偽りなき偽りの仲を見せつけた。
「ところで今の冗談、どこまでが冗談だと思います?」 ▲ |