9〜12

9///気付いてないユーリを世話するおっさんの話
10///「不思議な事は扉の中で」軽い番外編
11///ルーク様の護衛(YLとティア)
12///あついよ!




















*9///気付いてないユーリを世話するおっさんの話
「愛してるぜぇ〜!」

 ちゅばっとキスを飛ばして、少し傷付いたルークのHPを回復させた。その瞬間、レイヴンの背中に悪寒が走る。気が付いたらその場を飛び退いていたが、そこに何が起きる訳でも無い。それはガルバンゾの裏社会に身をやつしてきた者にとっては馴染み深い、殺気だった。ロニール山脈の奥深い他に人が居ないこんな所で、本当に暗殺者ならば速攻で首がおさらばしていただろう。躊躇いを感じさせないレベルのそれは、普通の殺し屋とは一線を画していた。

「おっさん、何一人で踊ってんだよ。戦闘終わったぞー」
「ああ、ルー君ごめんねすぐ行くって」

 前方で剣を奮っていたルークが声をかけ、ハッとして警戒を解く。慌てたフリをして隣に駆け寄れば、またゾクゾクと鳥肌が立った。足を弛め、にゃほほほ、と道化のように笑って誤魔化す。ルークは不思議そうにさせたが、もっと前方でディセンダーが声をかけたのでそれに応えて先を行った。
 そしてレイヴンは、溜息を吐いて少し前を見つめる。全身黒衣で黒い長髪、ガルバンゾの同ギルドででも馴染み仲間だった青年ユーリ・ローウェル。レイヴンとしてはこの青年の事はそれなりに買っていて、個人的な評価も終了していたのだが……。最近になってそのデータを書き換えなくてはならない事態が続いていた。ただの書き換えならともかく、自らに振りかかる災難によって発覚するのだから質が悪い。

 ユーリは少し先を行く二人、いや正確には朱金をただひたすらにじっと見つめてゆっくり歩いていた。その隣に並んで、ボソリと声をかける。

「青年、戦闘中にいきなりは止めてって言ったっしょ?」
「……ああ? 何のことだよ」

 全く本人がこれだから、質が悪い。レイヴンは分かっていた、先程の殺気。あれはこの紫黒の青年から発されたものだという事を。
 今日のPTはルーク・ユーリ・レイヴンと魔法剣士のディセンダーだ。少々偏っているが、レベル上げなのだからこんなものだろう。そしてこの編成で回復役は基本的にレイヴンが担当している、その為今日のメンバーは全員男性。魔法剣士の回復は術者周辺固定なので、タイミングが悪いと上手くいかない。だから先程のように何度も回復としてスキル「愛の快針」を全員に飛ばしているのだが……、どうも約一名限定時に他のものも飛ばしてくれる人間が居るのだ。

「王子様回復する度に、殺気飛ばさないでってば! 分かってんでしょ?」
「知らねーよんな事、なんでオレがそんな事するんだって」
「無意識なんだから、本当にもーしょうがないったらない!」

 そう、このPTでルークを回復する度に、ユーリが殺気を飛ばしてくる。戦闘時以外でも回復すれば容赦なく飛ばすのだから、面倒だった。レイヴンが分析するに、恐らくスキル口上の「愛してるぜぇ〜!」が気に入らないのだろう。本人に言えば否定するだろうから、言わないが。

「もーおっさんルー君には回復しないから、青年がアイテムで回復したげて!」
「おいおい、堂々とサボリ宣言か?」
「だって怪我してないのにこれ以上ヘロヘロになりたくないって! おっさん若くないんだからもっと労ってちょうだいっ」

 HPじゃなくてTPが空になっちゃうっ! そう言ってわざとらしく怒り、先を歩く二人の元へ足を進めた。ユーリは少し不満そうにしていたが、懐を漁ってグミの数を見ている。今朝出掛けにディセンダーが消耗品を補充していたので、数は問題無いだろう。しかし清貧を提唱するギルドリーダーは出費に細かい、回復役が二人居ての消耗はイチャモンが付きそうだ。だがそれでも使おうというのだから、余程気に入らなかったのか。

「早く自覚してもらいたいものなんだけどねぇ」

 ぼやくような呟きは、案外切実だった。実害が無ければ男同士だろうが何だろうが構わないが、勝手に自分を挟まれてはたまったものではない。レイヴンはとほほと肩を竦めた。

 しかしスキル「愛の快針」のターゲッティングはあくまで自動的であり、HPが低い順に回復させる術だ。なので本人が回復しないと宣言しても、PT内でルークのHPが一番減っていれば勝手に回復する。それを見たユーリがまた眉を潜めて、同時にルークが少しでも傷付けばグミを投げる事態が続いた。行きに100個近くあったアップルグミが、帰りには1/3に減っていてディセンダーは表情を変えず怒ったのだった。




























10///「不思議な事は扉の中で」軽い番外編
「んじゃ行ってくる、今日の帰りは7時くらいになるわ」
「おー分かった、いってらっしゃいだぜー」

 ぱたんとドアが閉まり、外からガチャリと鍵がかかる。それを見てからルークはリビングに戻り、陽の当たる窓辺で寝転びだした。ぽかぽかいい陽気で気持ちいい、静かすぎず五月蝿過ぎない外からの音。妖精達の小さなコーラスを聞きながらウトウトし、逆らう事なくそのままもう一眠り。

 自然に瞼が開いた時には、もう午後の3時になっていた。しまった、ついうっかり。ルークは慌てて起き出し、呪文を唱え始める。

【〜、〜〜、〜〜〜……】

 人間には捉えられない音域が部屋中に反射して広がり、空気の波紋の様なものが視覚化されていく。波状運動がルークの前に集まっていき、やがて一つの塊となって形作られていった。それは野球ボール大の大きさで、輪郭のボヤけたなにか。薄っすらと青色が着色されている事は確かだが、霧が集中しているだけのような不安定さが見えた。
 ルークはふぅと一息、しゃがんでソレを手に取った。境界線の無いソレは、青色がさらさらと溢れながらも本体に戻ったりを繰り返している。

「よし、ミュウ。もう道筋は分かるだろ、俺とユーリの縁を辿ればいいだけだからな。迷子になったりすんじゃねーぞ、あと見つかるなよ? あいつにバレるとうっせーし」

 ミュウ! と空気を震わせながら返事をし、ルークの手からふよふよと旅立つ。窓をすり抜けて外へ、このままユーリの元へ幸運を届けに行くだろう。
 けれどあまりこれをするとユーリは怒る、それが何故かルークには理解出来なかった。ミュウはあくまでもトリガーの一つ、あれが本当に幸運になるかどうかは対象者の行い次第なのだ。だから実際ユーリの身に幸運が訪れるのは、ユーリの日頃の行いが良いからだ。情けは人の為ならず、まさにその通り。
 そう説明しても、今度はルークの魔力の話へと切り替えて説教しだすのだから、人間とは変な生き物だと思う。願いは言わないし、妙に世話したがるし。

 ルークは元の世界のガイを何となく思い出した。ガイも精霊なので、本来世話をしたりされたりなんて無意味なのだ。けれど本人が嬉々としてするのだから、ルークは放置している。一度何故そんな事をするのか、主従ゴッコならば自分の親株であるアッシュの方へするべきではないか、そう聞いた事がある。しかしそれには笑って返され「ルークの嬉しい顔を見ると俺が嬉しい」、そう言われたのだ。
 別段世話されて嬉しい顔をした覚えはルークには無いのだが、誕生してからずっと側に居るガイがああ言うのだから気付いていないだけなのかもしれない。

「嬉しい顔を見ると嬉しい、か……」

 そう呟き、ユーリを思い出す。人間の作法はよく分からないが、ルークがユーリの言う事を聞けば何となく嬉しそうな顔をしているのは数回見ている。以前「躾もそんな難しくないのな」なんて口にしていたが、ルークには意味がよく分からなかった。
 思いついてテレビを付ける、人間の情報は人間から、ルークは地上に降りて以来この機械に興味を惹かれっぱなしだ。ポチポチとチャンネルを適当に回し、ふとある画面で止まる。それは料理番組で、テキパキと何か作っていた。

 ルークは固形物を受け付けないし、基本水分しか摂らない。だから料理なんてユーリが作っている時しか知らない上、それも途中が無いのだ。ユーリがキッチンへ入ったと思ったらリビングへ戻ってきて、テーブルの上に料理が置かれる。どうせ食べないからと無視していたのだが、料理は人間に取って重要な存在、ファクター。
 これを作ってやれば、ユーリは泣いて喜ぶかもしれない。そう思いつけば、ルークはじっとしていられない。コンロ周りは絶対に触るなときつく言われている事もすっかり忘れて、キッチンへ向かったのだった。

*****

「ただいまっと……。あれ、ルーク?」

 玄関前でチャイムを2回鳴らした後、鍵を開けてノブを回す。何時もならば中からルークのどたばたした足音が迎えてくれる筈なのだが……、ユーリは訝しげに扉を開ける。するとそこには、朱金がぐったりと床に延びている惨劇が直ぐ様目に入った。

「ルーク!」
「……ぐえええええ、あじみ、あじみがああああっ」
「お前、何やってんだ! 水、水っ!」

 倒れているルークの周りにはお玉と小皿、そしてコンロには魔女の晩餐かと目を疑うような中身の鍋。何となく事態を察して、ユーリは頭が痛くなった。

 けれどユーリ自身は中々言う事を聞かない所が可愛いと思っているのだから、このペットと飼い主は良い関係を築けていると言えよう。




























11///ルーク様の護衛(YLとティア)
私はティア・グランツ。役職として本来なら複雑に長ったらしい名称を持っているのだけれど、今現在の所はライマ国第一王位継承者である、ルーク・フォン・ファブレの護衛をしているわ。元々はナタリアの護衛としてここアドリビトムに来ていたのだけれど、ナタリア本人から必要無いと言われてしまいルークの方へ付いているの。ナタリアは黙っていればとても綺麗な、それこそお姫様そのものといった方なのだけれど、パワフルな行動力が期待を裏切る珍しい人よ、勿論良い意味で。

最初に護衛に付いたのがナタリアだった事もあり、王家の人間という人種の変異性に多少は慣れたと思っていたのだけれど……。ルークとアッシュの兄弟を目にしてそれは確信に変わったわ。
地位の高い人って、大人のような強かさと子供のような純真さを同時に併せ持つものなのね。このアドリビトムにも、ガルバンゾのお姫様や某国の王子が居るのだけれど、必ず芯にとても綺麗な何かを感じさせるものがあるわ。普通の人間が年を取るにつれて、子供の頃に持っていた幻想を少しずつ削られていき、最後無くなってしまうのに対して、彼らは心の奥底で強固に守っている……いいえ守られている。
きっと周りの人間が、無くなってしまった自分を嘆く代わりに、それを大事にしたいと思うのでしょうね。だって私がそうだもの。ナタリアから志の高さを、アッシュから意志の強さを、ルークからは……。
ルークから何を学んだかを考える時、私の思考は一時停止してしまう。何故なら彼の良さというものは、一見難しそうであってとても明快で、けれどその実……明瞭にできないものだから。

そう、ルークはとても難しい。知らない人間から見る彼の像は簡単に想像がつく、だってそれは私が一番最初に思った事ときっと同じだろうから。けれど彼の近くに居て、彼の心の端を少しでも感じる事ができれば、それは大きな間違いだと気付ける。私は自分の性格上気付くのに時間が掛かってしまったけれど、いざ気付いてみればすぐに考えを改めた。
殻が分厚いと思っていたのも、トゲを出して警戒していると思っていたのも。
それは全て見る側のイメージであって、彼自身は何時でも素直で居たんだわ。ただ表現方法が少し不器用なだけ、彼の傲慢さはどんな相手にでも平等で、それこそが彼の良さでもある。
けれどそれはとても危なくて、今彼がこうあれる事が奇跡のようなもの。だから私は守りたい、あの輝きを。本人に知られれば勝手な決意だと鼻で笑われるでしょう、けどきっと心の底では気に留めてしまう。そういった機微が、私は愛しいと思うの。あの輝きを守れるのならば、どんな事だってしてみせる。

……もちろんこれは、私の贔屓目がたっぷり入っているっていう事は否定しないのだけれど。だって仕方がないわ、彼の照れる顔ってとっても……可愛いんですもの。

*****

「ルークに会いたいのなら、私を倒してからにしてちょうだい」
「おいおい、またかよ……」

目の前の人間は、ユーリ・ローウェル。アドリビトムでは先輩というのに当たるのかしらね、けれど今この場ではそんな事は関係無いわ。何時も何時もルークを連れ回すこの男を、私は警戒している。最初は顔を合わせれば喧嘩ばかりしていたのに(それもルークが一方的に)、最近は妙に二人一緒に行動している。
ルークは部屋に帰れば彼の愚痴をつらつらと並べるのに、その表情が……。いいえ、私はルークを守るだけ、変な虫が付かないように本国でクリムゾン様に散々お願いされたじゃない。それにシュザンヌ様からルークの幼少期のとっておき写真を見せて頂けるとの約束が……コホン、なんでもないわ。
私達の部屋前で、相対する。私の手にはゲイルスタッフが、ディセンダーからユニーク武器を借りてきた物よ。
ちなみにユーリにこうやって戦いを仕掛けるのは、よくある事。勿論ルークが居る前ではやらないし、そう毎日している訳でもない。ただこの男は毎朝ルークを部屋まで迎えに来るものだから、タイミングは分かっている。見計らって一騎打ちを仕掛けるこの光景に、相手は少々うんざりしているみたい。けれど私から退くつもりはない、何故なら私は護ると決めているのだから、最近私の前では見せてくれなくなってしまったあの笑顔を。

「仕事熱心なのは構わねぇが、あんたが守ってるモンがそんな繊細なタマかよ」
「彼を侮辱するつもり? それなら……私にだって考えがあるわ」
「違ェよ、そうやって勝手な価値観押し付けてっからあいつはあんたの前じゃ笑えなくなっちまったんだろうが」
「何を……知った風な口を」
「……あんたに何かあったらあのお坊ちゃんは悲しむ、それくらい分かってんだろ」
「私はルークを守る、それだけよ」
「ったく、ライマの人間は揃って頭硬いな。仕方ねぇ、これは使いたく無かったんだが……」

そういってユーリは懐から何か写真のようなものを取り出し、それを渡してくる。何、賄賂のつもりならばそんな手私には通用しないわよ。むしろそんな手を使ってくるつもりなら、これで心置きなくこの男をボロ雑巾にできるというもの。

「なんのつもりか知らないけれど、私がそんな手にのると……」
「いいから、見てみろ」
「……」

写真の背を向けて渡してきて、それを少しイラついた気持ちで受け取る。こんな物で私の気持ちは決して動かない、そう思ってその写真を目にした。
けれどその決意は砂上の楼閣、儚い夢物語の世界のように簡単に崩れ去った。

「…………こ、これは……!!」
「特別だぞ、……他の奴には絶対見せんなよ」
「なっ、そんな、……ええっ? やだ………………かわいい…………」
「可愛いだろ」
「……ほ、……他は無いの?」
「あるけどよ、あんたに見せてやる義理は無いな」
「そんなっ!? こんなの見せられて他が無いだなんて、生殺しもいい所じゃない!」
「……食いつきスゲェな」

急に態度の変わった私に、目の前のユーリは引き気味。けど仕方がないじゃない、こんなルーク……誰だってメロメロになるに決まってる。私の隠している可愛いもの愛が、爆発を通り越してパンデミックよ。ユーリの胸ぐらを掴みかかって、出しなさい、いいから出しなさいと詰め寄る。けれどユーリはどこ吹く風で、その態度を崩さない。……くっ、この男やるわね……!

「……仕方がないわね、今日だけよ」
「おい、何懐に仕舞ってんだ。写真返せよ」
「何のことかしら」
「…………ルークがああ言ってた意味が分かった」
「けれど今日だけよ、次は無いから。……次は猫耳パジャマの写真を持ってきたら考えてもいいわ」
「それは流石に……、いや、まぁ何とかいけるか……?」

いけちゃうの……ルークってば私が散々お願いしても絶対に着てくれなかったのに……! 嫉妬の炎に狂いそうになるけれど、懐の写真を思い浮かべて気を落ち着ける。ああ、可愛い。すぐにでもコレクションアルバムにラミネートして永久保存したいわ。
ユーリに道を譲って、どうぞと口にする。胡乱な瞳を隠さず素通りし、部屋の中へ消えるユーリ。どうせ部屋の中は兄さんが居るから、ルークの興味は向かない。ルークの兄さん好きには困ったものだわ、腹立たしくて何度兄さんを見殺しにしようかと思ったか。

私は懐から写真を取り出して、じっくり眺める。……可愛い、本当に。この笑顔を向けているらしい先を考えると気に入らないけれど、これだけの表情を見せられては何も言えない。
私はそう、ルークを守れればそれでいいの。……だから今度ユーリに、ゴシックドレスを贈ろう。そして高画質L版で撮ってもらっておう。いけない、シュザンヌ様に連絡して衣装を送ってもらわなきゃ。本国の”ルークに着てもらいたい衣装ケース”が5個目に突入したと言っていたから、きっとお喜びになるわ。ああ忙しい、こうしちゃいられない。

私はティア・グランツ、ルークの護衛を務めているわ。あの輝きを守れるのならば、どんな事だってしてみせる。……とりあえずそうね、ディセンダーから猫耳と犬耳と兎耳を借りてきましょう。




























12///あついよ!
「あちぃ……」
「……そーだな」
「しぬほどあちぃ……」
「死んじまったら、オレは困るな」
「この暑さが無くなってからライフボトルで起こしてくれ……」
「復活するにはまず死ななきゃなんねーけど。……戦闘するか?」
「ばかいえ、んな余裕ねーよ……」
「じゃあもうちっと頑張れや、オルタータ火山には後このまま3日程予定があるらしいからな」

 あと3日、この炙られてチャーシューになりそうな暑さを後3日耐えろと言う。ルークは恒例の怒りと我儘を発揮しようとしたが、その余力すら湧かない。いくら今重要任務で火山に用事があると言っても、少々近場過ぎやしないだろうか。マグマ湧く地熱で気温全体が高く、間欠泉が多数あってバンエルティア号が停泊する付近全てが熱帯地方。
 熱いのに湿気があってじっとりしている、最悪だ。特に髪の毛が長く纏めてもいないルークにとってこの状況はかなり辛い。この熱気に船内の人間は半数以上が別地区への依頼を受けて逃げている。残念ながらルークは情報惰弱者として負け犬の看板を背負っている最中、ぐだぐだと食堂でくだを巻いていた。
 そしてそれに付き合っているのがユーリ。上から下まで真っ黒で、長髪に括ってもいない。ルークと同じ様な姿なのに、ルークのように軟体生物状態になっていなかった。これにルークはどうしても納得がいかない、ジェイドやヴァンならばこの暑さでサラリとしていても何ら不思議に思わない、だがどうしてこの男が。

 もしや服の中に何か仕込んでいるのかもしれない。フレンだって露出は一切無く甲冑を着込んでいてもあの爽やかさを失っていない、同郷・幼馴染・親友のユーリにも何か秘密があるに違いない。ルークは多少おかしくなってきた頭でそう考えた。

「おまえなんか隠してんだろ! 出せ、出せよー!」
「おわっ、ちょ、止めろって……! なんも持ってねーよ。わ、馬鹿どこに手突っ込んでんだ!」
「これか、ここなのか? ん、ってクッキーかよどこ入れてんだっつの! 下は、下脱げよこらー!」
「や・め・れ! こら、まじで……。どわっ! 腰紐持ってくな!」
「めんどくせーもう全部脱げ!」
「なんでオレだけ脱がなきゃなんないんだよ!」
「じゃあ俺も脱ぐからお前脱げよ絶対脱げよ!?」
「いやいやいや、だからなんで脱ぐ話に……。ってちょ! 待て待て待て下着は脱ぐな落ち着け!?」
「だからユーリもぱんつ脱げっつってんだろうが!!」

 ドタ・バタ・ガタのアンサンブル、他に居た人間にもすっかり見捨てられて食堂には朱と黒っきりで、ごちゃ混ぜになっている。 この泥遊びは夕方帰ってきたリリスに叱られるまで続いていたと言う。

 早々に避難したロックスは語る。

「正直あのお二人の方が、お熱いご様子でした」







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