さよならだけがぼくらのあいだ








1
*ディセンダー

新生ルミナシアの創世を終えた自分が、我が家とも言えるアドリビトムに帰ってきたのは、最後の戦いから数ヶ月後だった。と言っても世界樹に還っている間、時間の感覚は無かったからこの日数感覚はみんなから。
帰ってきた私を皆喜んで迎えてくれて、とても嬉しかったのを覚えている。なんだかんだ言ってメンバーはそのままギルドに残っているようで、変わったと言えば世界の危機を乗り越えた仲間達の結束が増したくらい。
聞いた話で驚いたのは、アッシュとルークが歩み寄っている、らしい。
エラン・ヴィタールへ行く前に王の資質をヴァンに二人揃ってダメ出しされていたのを見ていた私は、二人の行く末をとても心配していた。正直この話を聞いた時も、噂がまわり回って大きくなったのだろうと思ったものだ。そして実際二人の様子を見た時それは確信した。
なんでもナタリア経由・エステル発案・ティトレイ煽り役で、外側から楼閣作戦だそうだ。これの何が不幸かというと、アドリビトムメンバー全面協力を取り付けているという事実。正直当人同士はビシバシ感じるプレッシャーにウンザリしているみたいだけど。
唯一の救いはルーク本人はそこまで嫌がっていない、ということぐらいかもしれない。アッシュは頑固というか、自分から歩み寄る気がイマイチで、ナタリアやガイがなだめすかして付き合ってやってるって感じ。
第三者から見れば、アッシュはきっかけさえあればブラコンになるとささやかれてはいるらしいけど、私から言わせるとあの双子は喧嘩している方が仲が良いと思うので、余り皆で構うのはどうかな、と思う。
けれど皆一丸で何か協力するのが楽しいというのも分かる。それが当人からすれば余計なお世話だったりしても、世界の危機を乗り越えたご褒美としてはこういうのも良いかなと考える私も、大概ノーテン菌に感染している。





でも、この件で最も割を食っている人物からすると、「たまったもんじゃねぇな」らしい。そう言っているくせに、恋人に嫉妬を見せたくないからってこうやって”知っている”メンバーに吐くのは止めてほしい。

「ユーリ、溜息」
「おお、悪いな。けど出るだろ。ぶっちゃけ」

何がぶっちゃけ、なのか。

「前衛のユーリが僧侶の私と同じ線に立つのは良くないよ。PTで来てるんだから」
「いや、あの二人で充分だろ。今のレベルで聖地初期エリアなら、グミも要らない位だし」
「保護者気取ってるならルークへのいやらしい目線を止めてよ。さっきからアッシュが睨んできてるんだけど」
「坊ちゃんの背なチラは国宝級だと思ってる」
「そういうのマニアックって言うんだよね、アーチェが言ってた。でも今日のクエストはユーリの為じゃないんだよ」
「わかってるって。『双子ちゃん仲良し大作戦』の一環だろ?」

『双子ちゃん仲良し大作戦』気の抜けそうなタイトルにリタあたりが聞けば「馬鹿っぽい」と一蹴しそうだけれど、原案からしてエステル一色なのだからどうしようもない。
作戦名から計画内容・過程・結果までを如実に表していて無駄の無い素晴らしい計画書ですねとジェイドが薄ら笑いを浮かべながら言っていたのを思い出す。
今日はその計画の一環としてアッシュ・ルーク・ユーリと僧侶の私で聖地ラングリーズへと採取クエストに来ていたのだ。
ちなみに噂の二人はちょっと離れた先で揃って喧嘩しながらばったばったと敵をなぎ倒している。その様はお世辞にも息が合っているとは言えず、どちらが数を倒せるか勝負みたいになっていた。

「つーかもう充分だと思うけどな。あの二人は」

船に来た頃の、ギスギス喧嘩はもうしなくなった。それは良いことだと思う、今では正にちまたの兄弟喧嘩そのままだ。私としてもこの辺りが頃合いだと思うけれど、楽しんでいる皆の水を差すのもまぁなんだかな。けどユーリとしてはそうも言ってられないらしい。

「オレはもう一ヶ月もルークと二人きりになってないんだぞ」

はぁそうですか。
思わず口に出そうになったけれど、恋人のお付き合いをしているらしいユーリとしては、死活問題だそうだ。
生まれて一年ちょっと? 程度の私ではこまかい心情は分からないけど、半眼でルークを見つめるユーリの瞳はなんとも複雑そう。でも不思議なことに、それを本人には悟られたくないらしい。普段大人面している余裕がなんたらかんたら、らしい。全くもって人の心っていうのは分からない。

正直二人が付き合っているってこと自体、帰ってきてから知った私には寝耳に水であるのに、計画のせいでルークとイチャイチャできなくて不満だとかそんなこと言われても困る。
むしろ私はユーリとエステルが恋人同士なんだと思ってたクチだ。だって元々ユーリはエステルを助けて国から攫ったんだから、アニーから借りた恋愛小説みたいな”愛の逃避行”みたいじゃない? 
ユーリはガルバンゾで下町育ちだったらしく、助け合い精神が染み付いてるみたいでよくロックスやクレアを手伝っていた。ここで子供達を相手にしていた訳ではないのが、ユーリの立ち位置の上手い所なのかも。それでもマオやカイウスが構ってくれと言えば相手をしていたみたいだし、やっぱり基本お節介というか、”放っておけない病”らしい、ガルバンゾのみんな曰く。
けど誰彼かまわず手を出す訳でもなく、基本的に女子供や一人ではどうにも出来そうに無い場合を見極めている気がする。私見だけれど。
だからこそユーリがルークを好いているという発想が無かった。
ルークはテロで国を追われたと言っても、基本貴族だ。ユーリの貴族嫌いは割りと知られていて、当初ルークが来た頃は顔を合わせれば皮肉と口喧嘩の応酬だった。
どちらかといえばあれはユーリがからかっていただけみたいだけど、パッと見仲良さそうには見えなかった。アッシュには全然そんなこと無かったのに、思い返せばそこからもう既に特別視していたのかもしれない。
ユーリが嫌いな貴族でも、周りに護衛や使用人が居ても、我儘放題だったとしても、ルークにはそれを超えて何か感じるものがあったんだろう。
人というものを勉強中の私としては、いつかその辺りを詳しく聞いてみたい。

「二人きりになりたいなら直接言えばいいと思う。ルークなら聞いてくれるでしょ」
「お坊ちゃん自身は弟の事を結構気にしてるし、仲が良くなる事自体は悪くないと思ってはいるんだよ」
「つまり男の嫉妬は醜いって事なんだね」
「ま、一言で言えばそうだな」

ケロリとした様子で言うユーリに、やっぱりバカップルに首を突っ込むとロクなことはないと言っていたノーマは正しいみたい。イリアはリア充爆発しろ! とも言っていた。



「おーい! お前らおっせーぞ!」
「グズグズしてるんじゃねぇよ」

双子仲良く言ってることもやってることも同じだ。
ボルテックス・トップに到着する頃にはそれなりに時間も経ったようで、後は青い宝箱から依頼品を見つければ依頼完了。結局ファーストエイドを数回かける程度だったし、ユーリに至っては戦闘に参加すらしていなかった。こんな調子ならレベルの低い職業で来て底上げをすれば良かったよ。

「ここに来るまで俺が倒した数のほうが多かったから、この勝負は俺の勝ちだな!」
「お前は数も数えられない程馬鹿なのか? どう考えても俺のほうが多かっただろうが!」
「ハァ? ざけんなよ! お前なんかゥエックスプロード! とか叫んでただけだろうが! 自分の魔攻数値考えろよ!」
「考えも無くチャージトータスに飛燕瞬連斬やって空にカッ飛んでいった馬鹿はお前だろうが!!」
「ンだと!?」
「なんだと!?」
「喧嘩の間に息してないで、宝箱回収して戻ろうよ。帰ったらクレアのピーチパイが食べたいや」
「朝仕込んどいたプティングもいい頃合いだと思うぜ」

プティングの言葉に、瞳を輝かせるルークはまだ可愛いと思う。アッシュは餌付け完了されている兄としているユーリを睨みつけて忙しそうだ。

ボルテックス・トップから吹き出す粒子の側に、依頼品の宝箱を見つけてそれを開けようとした瞬間だった。
ボルテックス・ボトムへと続く奥の通路から突然音の衝撃が響き、ふと足元に大きな影が映る。ぞわっとした気配が背を走り、ユーリの声が「上だ!」と叫ぶと同時にその場を飛び退いた。
ドスン! と地面が揺れて転びそうになるが、腰を落とすことでなんとか耐える。戦闘職であればこの程度の揺れはなんでもないけど、今は残念なことに僧侶だ。ただ他職での経験上、目をつむらなかった自分をえらいと思う。
立ち上る粒子をさえぎる様に現れたのは、デカラビアスだった。空気が震える程の咆哮を上げ、殺意を持ってその前足を振るってくる。
ルークを抱えたユーリとアッシュは上手く左右に避けていたが、運悪く正面に座り込んでいた私は直撃を食らい、地面に叩きつけられてHPをゴッソリ持っていかれる。ルークの叫び声が聞こえた気がしたが、目の前でお星様が飛んでいる私には判断がつかない。ただ唯一の回復役である自分が気を失う訳にいかない、気合で焦点を戻す。
とどめを刺そうと目の前でデカラビアスの凶悪な爪が舞うが、私に届く前にアッシュが剣を振るい受け止める。爪の力を逸らしながら流し、本体へ大きく踏み込んだアッシュの剣技が見事にデカラビアスの眼を潰していた。
苦悶の雄叫びを上ながらも、引く様子は見えない。魔力が集まっていくのを感じて、慌ててその場を退くと間髪入れずネガティブゲイトが空間を裂く。

「なんでいきなりこいつが現れるんだよ!?」
「そんな事知るか! とにかくこいつをぶっ倒すぞ!」

ユーリに支えられていたルークも剣を構え、ユーリも刀を抜く。
私はできるだけ敵から離れ、回復と補助魔法を掛け続ける。アッシュは中衛に陣取ることで回復の負担を減らしつつ、魔法によるガードクラッシュを狙ってくれる。こういう時はアッシュの冷静さに感心する。
普段ルークとよく喧嘩して、怒ってばかりですぐ熱くなるように思えるけれど、実際いざという時はよく周りを見ている。今回のPTのように物理に偏っていると回復だけで手一杯になってしまい、状態異常になってしまうと手が回らず、そこから崩れてしまう。アッシュはステータス的に魔法を撃つには向かないけど、前衛が足りている分には仰け反りを崩したり、ヒットの隙間を魔法で埋めたりする方が結果的にはいい。
ルークの技が物理のみ、ということを考えるとまさに裏表だと思う。

三人で攻め続けるが敵もそう簡単には倒されてはくれないみたいで、その巨体で場を駆けまわり、何度も隊列を崩してくれる。何より前衛二人にとっては魔法が痛く、運悪くネガティブゲイトに当ってしまうとヒールでは追いつかない程削られる。

「いい加減、お終いにしようぜ!」

リミッツゲージの溜まったユーリの秘奥義が煌めく。
デカラビアスの外殻を抉る程の斬撃を浴びせ、一気に勝負をつけるつもりなのかルークも続けてオーバーリミッツの輝きに包まれた。

「うおおおお! これでも! くらえぇええ!」

破れた殻の隙間にブチ込むように大きな力が空間を支配する。
生命の断末魔が空気を震わせ、光が収まる頃にはデカラビアスはゆっくりと崩れていった。

「……やったか?」

デカラビアスは体の端からゆっくりと解けるように消滅していき、自重を支えきれず崩れていく。私は警戒しつつも、詠唱を一度キャンセルする。
アッシュも詠唱は止めたが、剣はまだ収めない。完全にその姿が消滅するのを見届けるつもりなのだろう。

「ハァ、んだよいきなり来た割に大したこと無かったな」

近寄りはしないが、剣を腰に収めるルーク。まぁ一応倒してはいるんだけど、ちょっと危ない。隣にユーリがいるから大丈夫だろうけど。前方のアッシュもそれを見てまた眉間に皺を寄せてる。後でまた喧嘩になりそう。

「ルーク、まだ出てくるかもしれないぜ」
「そもそもここに出てくるのがおかしいんじゃね」

確かにこのポイントは通常、魔物が出てこないはずなんだけど……。もしかしたら、ジルディアと混ざったことによって変わってしまったのかもしれない。生態系の変化は各地で確認されているし、環境もかなり変わってる。デカラビアスはレア種だし、突然現れたのも影響を受けたからなのかも。
進化や共生は良いことだけれど、その分今までの知識は役に立たなくなるだろう。そうウィルやリフィルが言っていたのを思い出す。
この時の私は、先のことを考えてデカラビアスの前脚が動いたことに気付かなかった。アッシュが大声で叫び、ハッとして顔を上げる。

「馬鹿野郎、避けやがれっ!!」
「――っ!」

体の後ろ半分は消えていたのに、最後の力を振り絞ったのか大きな前脚を近くにいたルークめがけて振りかざす。突風が吹いたようなスピードだったけど、傍にいたユーリが手を引っ張って二人は倒れながら避けた。

「雑魚が近づくんじゃねぇ! 絞牙鳴衝斬っ!!」

駆けたアッシュが秘奥義を発動させ、デカラビアスを完全に消滅させる。もわもわとした魔力残滓が視界を遮るけれど、それもすぐに晴れた。アッシュは地面に突き立てた剣を抜いて、今度はそれをルークに向けた。

「こっの大馬鹿野郎が!! 油断してんじゃねぇ屑がっ!!」

ユーリに支えられて立ち上がったルークは、すぐにムッとして口を開けるけれど、助けてもらったのは本当だから結局言い返せず押し黙った。その代わりみたいに、ユーリが前を遮る。

「まぁ倒したんだからいいじゃねーか、そんな怒んなよ」
「テメェは甘やかし過ぎんだよ!!」
「へいへい」

アッシュ相手だろうがユーリは通常運行だ。確かに今のはちょっと危なかったけれど、無事にすんだからいいんじゃないのかな。ルークも反論しようか謝ろうか迷って、結局何も言えなくなっちゃったって顔してるし。人生経験の少ない私でもあれは「ああどうしよう」って困ってるんだろうなって分かる。あの顔をアッシュも見れば一発なのに、どうしてこの双子はこうもタイミングが悪いんだろう。

「大体貴様がそうやってこいつを甘やかすから何時まで経っても自立できないんだろうが!!」
「オレは別に甘やかしてないんだけどね」
「それが悪いって言ってんだよ!」

あらら……、アッシュの矛先がユーリに向いちゃった。ここ最近の不満が爆発したんじゃないかって勢いでつめよるけど、やっぱりユーリはのらりくらりとかわしてる。その態度がよりアッシュに油を注いでるって分かってるのかなぁ、ユーリ。……分かっててやってそうだなぁ、ユーリ。
戦闘が終わったのにいつまでここにいるんだろう。二人が口喧嘩してる間に依頼品を回収して、ルークの隣に寄る。ルークは二人を困ったようにオロオロ見て、かわいそう。元々原因が自分だってところが、より申し訳なさ? を感じさせてるみたい。
そしてルークも思ったより早く爆発した。やめろこの馬鹿野郎!! ってホント言い方そっくり。

「俺が悪いんだろ!! 二人が喧嘩すんなよ!!」
「だから最初からそう言っ……! モガモガ!!」
「悪い悪い、そんなつもり無かったんだって。もう帰ろうぜ」

罵倒しかけるアッシュの口を塞いで、ユーリはこちらにも目配せする。アッシュがバタバタしてるけどお構いなしだ。けどそれがよっぽど腹に据えかねたのか、アッシュはユーリのすねをガツンと蹴った。離れて見ていたけど、あれは痛そう。思わず手を放したユーリは痛そうにうずくまる。足元の攻防を見ていたルークは、しゃがんだユーリに慌てる。そしてすぐ攻撃的な目でアッシュを責めた。

「ユーリに当たってんじゃねえ! 文句あんなら俺に直接言え馬鹿!!」
「だから最初からそう言ってるだろうが屑がっ!!」
「大体お前は短気すぎるんだよっ!!」
「お前は考えなさすぎなんだッ!!」
「んだとっ!?」
「なんだっ!?」

ああ、始まった……。アドリビトム名物・ファブレ家キャットファイト。昔みたいに険悪な喧嘩は無くなったけれど、代わりに子供の喧嘩みたいな低レベルなこれ。言い争ってる内容はしょうもないけれど、声だけは大きいからって誰が名付けたのかぴったりすぎる。ニャ〜オってかわいい鳴き声しか聞いたことなかったから、街で寝泊まりした時に猫の喧嘩声を聞いた時はびっくりしたなぁ。
横で始まった喧嘩にユーリもしまったって顔して額を押さえてる。そもそもユーリが悪いよね、これは。
いつもは大抵、周りのみんながハイハイ終わり終わり〜ってなだめて終了させるんだけど、正直私一人じゃ止められそうにない。ここでまたユーリが入ったら多分、アッシュはもっとキレるだろう。
ああもうこの双子、面倒くさい。

「大体貴様は子供の頃からそうだったんだ、妙に大人を味方に付けやがって!」
「どっちがだよ! アッシュだって大臣とかに推薦されまくってたじゃねーか!」
「あんなの裏があって当然だろうが、そんな事も見抜けないのかこの屑が!!」
「はぁ!? なんでお前ってすぐ裏があるーとか、利益がー、とか言う訳!? 自分の臣下だろーが!!」
「貴様が何も考えてないからだろうが!!」
「アッシュは考えすぎなんだよ!!」

ついに話題が子供の頃にさかのぼった。ここから先は輪にかけてくだらなくなっていくことは分かってる。けど、もういっそのこと気が済むまでやらせて出し切っちゃえばいいんじゃないかな。期待してるから不満が出るんだし、出尽くしちゃえば後は上手くいくよきっと。
ああでもこれで二人がブラコン化したら、ユーリは誰がどうやってなだめるんだろう。私はしたくないけど、多分私がするんだろうな。

近い将来の暗雲に、私が勝手にうんざりしている時だった。
二人の足元のボルテックス・ボトムの輝きが揺れている。最初はチラチラしているだけで分からなかったけれど、どんどん大きく乱れていって目に見えて変化していた。隣に避難していたユーリもそれに気付き、下げていた鞘を右手に握り直す。
光のゆらぎはついにエネルギーとなって吹き出し、未だ気付かない二人の長髪を乱れせている。
元々マナを排出している場所ではあるけれど、こんな不安定になるのはおかしい。それにどうもこのゆらぎ、二人の口論に反応しているっぽい。二人が音量と共に感情を高めるにつれて、揺れも放出マナも拡大していってる。ううん、この放出されているものは……マナだけじゃない。マナに混じって別の魔力がこの空間に流れてきている。それは多分ルミナシアのディセンダーたる私だから分かること。この世界とは違う物が、ゆらぎと共に放出されている! それもだんだん謎のエネルギーの割合が増えていって、この場所を満たしている。

「おい、そこから離れろ!」

この異常事態に双子はいつまでも喧嘩を止めないものだから、危険を感じたユーリはルークを避難させようと手を伸ばす。ユーリの焦った声色を聞いたアッシュが、やっと周りの異常さに気付く。遅いよ! 

「――っ!?」
「なんだっ!?」

本当に遅かった! ユーリの手が届く直前、二人の真下からエメラルド色の激しい奔流が吹き出して二人を囲む。
時間にして2・3分程、その激流は止まらなかった。中のルークを救おうとユーリが手を出そうとするけれど、あまりの激しさに弾かれてしまう。悔しそうな顔でそれを眺めていると、すーっと収まっていった。激しく吹き出した最初と違って引くときはすごくゆるやかに。
目の前の出来事に呆然としてしまって、後に残された二人が気を失って倒れているのに気付くのが遅れてしまった。ユーリはすぐにルークの脈をとる。私もアッシュの脈と、体に異常が無いかチェックする。
見た目では特に何もないけれど、大きなエネルギーの滝にさらされて、何がおこるか分からない。意識が戻りそうにないのも心配の一つだ。
ユーリもそう考えたんだろう、鞘を握りしめて立ち上がった。

「船に戻って救援を呼んでくる。この場を任せるぜ」
「分かった、気を付けて」

ユーリはともかく私じゃどちらも抱えられないし、途中の魔物を相手できそうにもない。それに容態の分からない二人を下手に動かすのも怖い。一人で行くのは少し危険だけど、気を失ってる二人を置いていくのはもっとできない。
回復と補助魔法をできるだけかけて、駆け足で行くユーリの後ろ姿を見送った。足元の二人は、怖いくらい静かで顔色も悪い。さっきまでウンザリしていたはずの二人の喧嘩が、もう聞けなくなってしまったらと思うと……。嫌な想像を振り払うように、私は効果もないリカバーやヒールをTPが尽きるまでかけた。







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