ハートビートモード








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 翌日、目が覚めるとクリウスは慌てずまずは朝食を食べに食堂へ行く。ロックス達が作ってくれる食事は美味しいし、焼きたてのパンはふわふわで幸せだ。いただきます、そう感謝を込めて食べる。パンを食べなければ人は生きれないけれど、それだけでは悲しい。好きな事を、出来る範囲で。クリウスは朝食を殊更噛み締めて味わった。
 食事を終えるが、先にアンジュの元へ依頼を見に行く。朝起きて朝食を食べて依頼を見る、それは最早クリウスにとってルーチンワークと言ってもいい。これをしなければ決まりが悪い、…事は特に無いが、今日はこれに従おうと思った。特に意味はない、ただそうしたいと思っただけ。心のままに生きている、一つの証のような。


 ルークが居るライマ部屋。ノックと声掛けをした後待てば、ガイが出てきた。正直にルークに会いたいと言えば、ガイは少し考えた後ウインクをして出て行った。通りすがりに肩をぽんと叩かれ、よく分からないが応援されたようだ。
 ガイはルークの従者で幼なじみだ、クリウスでは掴めない心内を理解しているのだろう。それを羨ましいな、と思った。

 遠慮無く足を進め部屋に入れば、相変わらずルークがソファで不貞腐れて寝転んでいる。昨日のまま世界を拒絶するように、扉側に背中を向けて。その背中と流れている朱金が、怒っているように見えなくてクリウスの口から勝手に声が漏れた。
 その声に気付き、ようやくルークは此方を見る。びっくりして瞳をまん丸に、慌てている様が可笑しかった。

「ルーク」
「あれ、ガイッ!? あいつ、追い払えって言ったのにぃ!!」

 またもプンプン怒りだしたルークだが、クリウスの顔を見てすぐにぷいっと背ける。昨日の今日なのだから、当然とは言えどうして言い放った側が困惑と言うか、どうしようと迷っている空気を出しているのか。それもなんだか、ルークらしいと言ってしまうとそれまでなのだが。

 クリウスはソファの横、ルークの顔が向いている方向へ遠慮無く座る。目が合った緑碧がきゅうっと縮まり、汗がだらだら流れていた。一種緊張感が張り詰めたが、それを破る勢いでクリウスは口を開く。

「ルーク、僕ね、あの後沢山考えたんだ」
「……は? ってかお前! 俺の前に顔出すなって言っただろ!?」
「うん、聞いたけど、言われた通りするかどうかは僕の意思だし。ルークに僕の行動を制限する権利、無いよね?」
「……なっ」

 そうはっきりと拒否すると、ルークの瞳は目に見えて傷付いている。それを悪いな、今すぐ謝りたいな、という気持ちが湧き出てくるが必死で抑えた。嫌われたくないから謝ったり取り消したりする事は、特にルークの前ではしたくない。深く心を知っているとは思っていないが、クリウスから見てルークは嘘を付かれたり誤魔化されたりするのを嫌っていそうだと思ったからだ。
 それに何より、今はこの心を吐き出したくて仕方がない。一晩考えて出てきた結論は、クリウスの中で納得のイチオシだったから。

「ルーク、僕の言葉を聞いて欲しい。国の中の100人中の1人じゃなくて、救世主であるディセンダーとしてじゃなくて。ルークリウス個人の、あんまり賢くないかもしれない……気持ちを」
「う……。い、嫌だ。お前の話なんか、聞きたくもねー! 俺に関わってくるな、どっか行け! お前が出てかないなら、俺が出てく!」

 立ち上がろうとするルークの手を引っぱり、どすんとソファへ乱暴な動作で落とした。いてぇ! と声が聞こえたが、そこから湧き出る感情があまりにも大きくて聞こえない。

 誰かの言葉や気持ちを遮ってまで、声を大にして言いたい気持ちなんて初めてだった。それはただ走って平等に愛し助け救い捧げていた今までと、全く違うむしろ正反対のもの。止まって視界を塞ぎ胸を射止めて爆発させてしまうような、どこから湧き出ているのか不思議なくらいの大きさ。
 時間を重ねればこれは、相手を尊重してじっと見守る形になるのだろうか。カノンノを見守るロックスのような、慈愛と言う類の悠久なるもの。けれど産まれたての自分に生まれた、産まれたての気持ちはじっと留めておけない。今すぐ吐き出して聞いて欲しい、分かって欲しい、見つめて欲しい。
 これはきっととんでもない我儘で無遠慮で自分勝手な、酷く傲慢な押し付けなのだろう。それでもいいから、一度くらいは知っておいて欲しいのだ。この気持ちを伝えられれば、心まで奪いたいとは思っていない。なにせ自分は既に、心を奪われているのだから!

「僕が倒れたあの時、夜にルークが手を握ってくれてたあの時間が……すごく、嬉しくて幸せで暖かかった」
「だから、し、知らねーっての!」
「ルークが知らなくても僕はちゃんと知ってる。あの時から僕は、明確に人への感情が湧いた。暖かいものを貰って嬉しかった気持ちを、感謝として伝え渡したい、と」

 あの手の持ち主が否定しても、あの時あの場所でクリウスはあの温度をしっかり受け取った。本人の手から離れてしまえば、後は受け取った側の自由だ。あの温度はルークの小さな優しさ、単純な心。

 夢の中で道に迷っていたクリウスには、あの光がどれだけの希望だったか言い表せない。抜け道の無い暗闇から救い上げてもらったような安心感、きっと世界のみんなは同じ気持ちを救世主に求めている。
 救われる側の気持ちを初めて知り、クリウスは初めて救う側に立つと自分で意識して決めた。それまではただぼんやりと、助けになればいい出来る範囲で、そう体が先に動いていただけ。いいやだけ、と言うのは乱暴かもしれない。それまでの行動で助かった人達は確かに居たのだから。
 けれど、節目と言うならば間違いなくあの時だった。それは誰がどう言おうと、絶対に譲らない箇所。例えルーク本人が違うと、嫌だと言っても無かった事にはしたくない。

 本当はあの時から、胸の痛みはあったのだ。けれどまだ温度が手の平に残っていたから、気付かなかっただけ。嫌いだと言われて、冷たい風に吹かれ今では寒々しい。その冷たい手を、ルークに向ける。もう一度欲しいなんて贅沢は言わない、ただ確かにあったあの温度まで、嫌いになってしまわないで。

「あの時から……僕の中で人を助けたいと、恩返しをしたいときちんとした形になったんだ。僕を産んでくれたのは世界樹で、僕を人にしてくれたのはアドリビトムのみんなで、僕を救世主にしたのは……ルークだ」
「違うそんな事ない! お前は勝手に生きて、勝手にやってるのがディセンダーなんだ! 俺の事なんか関係ねーんだよ!」
「そうかもしれないね、でも僕にとってはそうじゃない」

 人を導き希望をもたらすものが救世主だと言うものならば、クリウスにとってはルークこそが救世主だ。クリウスに生きる道を決意させ、生まれた使命を我が物として自覚させた。人は神の言葉と共に生きるという教えがあるのならば、クリウスはルークの言葉を聞かなければならい。だってまだ何も、ルークの御心を聞いていないのだから。

 クリウスはアンジュに相談した後部屋に帰り、電灯を点けた明るい室内と寒くないベッドでずっと考えていた。自分がルークを好きな事は分かった、胸の痛みの原因も。ではこれからどうするのか。忘れる? 無かった事にする? 言う通り顔も見せずに素通りする毎日を過ごす? どれも有り得ない、考えるだけ無駄だ。
 アンジュは言った、目標や目的を持てと。趣味は好きな事にして、そこから自分を成長させるのだと。クリウスはもう人で、救世主だと自覚している。そんな自分の趣味は、一つしかないに決まっていた。

「僕の趣味をね、ルークにしようと思う」
「……は?」
「アンジュが言ったんだ、趣味を持てと。人生を豊かにする何かを持てれば成長出来るって、言ってた。僕は人になって救世主になって、それが終わった後何をすればいいのか分からない。だから、その時の為にルークを趣味にするんだ」
「ちょ、待てお前! 意味が分からねぇ!」
「僕を救世主にしたのは、ルークだ。だから僕の救世主人生が終わったら、僕の救世主であるルークに従事したいという気持ちは自然じゃないの?」
「全然自然じゃねーよ不自然しかねぇ! 俺が趣味とか……、き、……気持ち悪いってんだ!」
「そう、それは残念だな」

 欠片もそう思っていない声で、そう言う。ルークも同じ様に聞こえたのだろう、キッと迫力を込めて睨み付ける。同じ場面に居て同じ気持ちになるって、なんだか気分がいいなぁ。そんな場違いな事を呑気に、クリウスは思う。

 理解の範疇を超えたらしいルークの怒鳴り声は部屋中に、立ち上がろうとしているがクリウスが腕を離さない。

「消えちまえよ、もう! お前訳分かんねぇよ!」
「じゃあ、僕の事をもっと知って。僕の言葉を聞いて、僕の想いを知って、僕の行動を見て欲しい」
「嫌だって言ってんだろしつけーな!? 人の嫌がる事はすんなって言われてるだろーが!」
「うん、そうだね。でもルークは本当に僕の事嫌いなの?」
「はあっ!? 嫌いってずっと言ってるだろーが!!」

 叫びすぎてぜいはあ喉が枯れ始めているルークを見て、クリウスはにこりと笑った。ガイ達程付き合いは長くないし、クレスやロイド達程仲良くもない。けれど全船員と付き合いのあるクリウスの耳には、きちんと評判という形で届いている。
 勿論根も葉もない噂話や大きくなっただけの話もあるが、それでもルークの話は割合単純なものだ。何々が無いからなんとかしろと言い誰かを困らせた、誰々と案外仲良さそうに掃除当番をしていた、アッシュと喧嘩してティアに叱られていた、なんて。裏の何かを疑う余地もないものばかり。
 ルークは分かり難くて、でも分り易い。今ではこれが船内での総合評価だ、間違っていないだろう。ただの我儘王子様が、わざわざ夜中一人医務室に来ないし、手を握ってくれたりなんてしない。気まぐれかもしれないけれど、確かにあるルークの心の中の一つ。クリウスはそれを、とてもとても好きだと思った。

 頭に血が上ってカンカンのルークに、軽く引っ掛けを仕掛ける。経験のないクリウスの言葉に引っかかってくれる人間は少ないだろうが、その数少ない人間は今目の前。

「ルークは嫌いな人が倒れた時でも心配したり、手を一晩握ったりするんだね」
「一晩もやるか! 一時間もやってねー……! って、ぅあ……」
「……ほら。ルークは口で言う感情の、殆どが本当じゃないね、嘘ばっかりだ。嘘つきは舌を抜かれるんだよ?」
「バッカじゃねーの! んなのただの喩えだよ!」

 言いながらもルークは両手で口元を隠し、赤くなっていく頬も隠した。それを見ているともっと見たいなぁ、なんて欲求が湧き上がる。贅沢は言わないと決めたのに、それをあっさり覆してしまうなんて。ルークはとんだ救世主さまだ。

「僕はまだ生まれたばっかりだから、人になっても救世主になっても、知らない事が沢山ある。その中の一つが、ルークだよ。だから僕は知りたい、ルークの事を」
「……っ」

 だから知って欲しい、僕の事を。そう本心から言えば、ルークの瞳は大きく揺れた。ビー玉みたいだ、なんて言えば怒られるかもしれない。でも綺麗だと思う気持ちは、やっぱりこれも本心から。

 不安そうに歪む翡翠はクリウスへの嫌悪には向かなかった。だがそれがどこに向けてなのか、という事まではクリウスでは読めない。今まで大抵自分の言う通りになっていた世界が、この船に来てから全く思い通りにいかなくなった。その苛つきが顕になったのか、それとも……。

 考えても他人の頭の中なんて当たっている気がしない。だから相手の口から出る言葉と行動が全てだ、例えそれが嘘でも。その嘘を本当だと思ってもいいし、嘘を暴いて本当を知りたいと思ってもいい。
 どちらでもいい、知れる事ならば。嘘に騙されて夢を見るのも、本当を聞いて後悔しても。何も知らずに通り過ぎてしまうより、よっぽどいいではないか。嘘を付かれるのが嫌ならば、本心を言ってもらえるまで仲を深めればいい。真実を聞いて傷付いたのならば、乗り越えられるように強くなればいい。

 分からない事を分からないままにする事だけ、それだけしなければいい、クリウスの心ではそう結論付けていた。
 ルークの事をまだクリウスは、何も知らない。けれど知らないのならば、これから知ればいいだけだ。歩けばいい、ただそれだけでディセンダーの道となる、それがディセンダー。

「……知って、どうするんだ。俺の事、なんて」
「それは知ってから考えるよ」

 つまりは見切り発車なのだけれど、立ち止まって思考停止してしまうよりも、よっぽどいいと思った。ルークはとたん肩を落とし、眉をしゅんとさせて悔しそうな上目使いで見上げてくる。

「俺だって、よく分かんねーよ、自分の事。だって今まで言う通りに歩いてきたんだ、いきなり……この道を退けって言われたって、どうしていいか分かるかよ」
「ルーク?」
「他の何か上手い方法があるってんならこっちが教えてもらいたいくらいなんだ! 俺はお前に言い切れる程、……自分を知らない。自分がしたい道を、今まで考えてこなかったから」

 今までの怒りを忘れてしまったかのように、途端にルークは弱気になる。何時も大声で虚勢と意地を張っている姿と正反対のようで、こんな風に言っては失礼かもしれないが、どこか可哀想に見えた。

 今の言葉を真っ直ぐ受け取るならば、ルークは自分でもどうすればいいのか分からないのだろう。きっとヴァンの依頼の時に何かあったのだ、自分の根底を揺るがす事が。その事にまだ戸惑っていて、処理出来ていない。クリウスが自分を知ってほしいと願いルークを知りたいと言っても、ルークは今聞ける余裕も無いし自分の事すら分からないのだ。
 それは大変に苦しい事なのだろう、一般的に。自分のアイデンティティの歪みは自己否定に繋がる、本来ならばそこで親しい人間や心を許した相手に助けを求めるものだ。けれどルークは自分の弱みを他者に見せたがらない、だから助けを求められない。

 クリウスはそのルークの苦しみを、鼻で吹き飛ばすくらいの強さで笑った。このギルドに所属してずっと生活して、何を馬鹿な事を言っているのだろうか。毎日食事や生活環境を整えてくれるロックス達、ルークと仲の良いクレス達、従者で幼なじみのガイだって居るのに。
 生まれたての救世主なんて肩書を持つクリウスなんかに弱音を吐くよりも、余程適材が居るではないか。むしろ分かり合えるから言い難いのだろうか、人とはとんと不思議な存在だ。けれど意地を張るのもいいが、程々にしなければ辿るのは自滅の一途しかないだろうに。

 クリウスが笑っても、今度のルークは突っかかってこない。への字口に曲げて、眉も同じ様に曲がっている。悔しそうでなんだか、情けない顔だ。こういう顔もいいね、そんな事を思ってクリウスは握っていた腕を一度離して再度差し出す。

「じゃあ、僕と一緒に探そうよ」
「お、お前はもう自分があるんだろ?」
「さっきはそう言ったけど、まだ生まれて一年経ってないんだよ? まだまだ知らない自分はいっぱいあるって!」
「……そういえば、お前赤ん坊もいいとこなんだっけか」
「そう、趣味だって今日決まった所だから、ルークっていうね?」
「まだ許してねえぞ、勝手に人を趣味にすんな馬鹿!」

 何時までも笑っているクリウスに腹が立ったのか、怒りだして眉をきりりと上げる顔は、何時ものルークだった。自分で自分が分からない、と言っているが今まで生きてきた道で人格が形成されるものなのだから、今有りのままがルークと言う証明でいいんじゃないかと思える。けれどそれに気付くのは自分からでないと意味が無いのだろう。それに黙っておけばその分クリウスは一緒に居れる、言う事無しだ。

 クリウスはやってこない手を自分から探しだして、ぎゅっと握った。あの日あの時あの場所で、貰った温度をじんわり感じる。ルークが困っているならば、助けたい。助ける事で自分も助けられている、案外そんなものだ。
 助け合い、いい言葉じゃないか。気に入らない人間も存在するだろうし、冗談じゃないと唾を吐く者も居るだろう。けれどルミナシアでただ一人ただ一匹で生きている訳じゃない、どうしたって誰かと関わりあいがある。その小さな関わり合いで手を繋ぎ、ずっと繋げていけばどこかで一本の線となるだろう。
 あのサレとも、もしかしたら遠い遠いずっと遠くで繋がってしまうかもしれない、きっと本人やヴェイグ達は絶対に嫌がるだろうなと簡単に予想が付くが。

 誰かの手を引くのは慣れている、道を歩くのだって。けれどその隣に、ルークが居てくれるのならばこれ程嬉しい事はない。地獄だって天国にしてしまえる、そんな夢のようで夢のままにしていられない予感。
 クリウスは手を握ったまま立ち上がり、ルークも共に立ち上がらせた。ルークは怒鳴り疲れてしまったのか、どこか呆れている。どれだけ言っても無駄だと、分かってくれたのかも? 一応本当に嫌ならばクリウスも止めるつもりでいるが、目の前のルークからはそんな気配が微塵も出てこいないのだから気分が上がるのだって当然だ。

「ね、ルーク。一緒に探していこうよ。僕が外へ連れ出してあげるからさ!」
「ふん、お前には何言っても無駄だってよーく分かったよ! ……勝手にしろ、けど変テコな所だったら承知しねーぞ」
「ルミナシアはどこも素敵で、どこも変テコだよ!」
「思いっっっきり、振り回してやるからな! 俺のせいで世界救済出来ませんでしたーなんて言うなよ!?」
「大丈夫、僕って結構要領いいから」
「お、俺を片手間で済ますつもりか!? ふざっけんな!」

 どこかピントのずれた怒り方をしているルークに笑い、クリウスは手を離さず部屋を出る。今は歩いてなんてちんたらしてられない、走りだすくらいの気分なのだから!

 エントランスを颯爽と駆けて甲板に出る。今日はいい天気で、風が気持ち良い。一面広がる青い世界を背中に背負い込んで、クリウスはルークへと思い切り笑いかけた。
 気分が良すぎて、今日を記念日にしたいくらいだ! ルーク記念日、今度船内中のカレンダーにそう印を付けておこう。1年に1回なんて少なすぎる、もっと沢山あるべきだ、こんなに素敵な記念日なのだから。毎月の行事にしよう、内容はルークと一緒に出かける事、はい決まり。
 記念すべき1回目は、その名に恥じないものにしなければ。

「さあ、さっそく自分探しに外へ出よう!」
「おま、待てって! 依頼でもないのに勝手に外へ出たら!」
「大丈夫、朝から一つ依頼を受けてるんだ。採取依頼だから、一緒に行こうよ。丁度いいよね、自分探しに採取依頼だなんて!」
「しょーもねー……。俺の悩みをシャレと一緒にすんな馬鹿が!」
「まぁまぁ、さあ言ってないで歩いて!」
「ちょ、引っ張るなって! ああもー後でお前がジェイドに怒られろよ!?」

 そう言って1人は笑いながら、1人は怒りながら。手を引かれ助け合いながらも、各々自覚ある最初の一歩を踏み出し始めたのだった。








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