ディセンダーのルーク寝取っちゃうぞ☆大作戦








驚天動地編

 ルミナシアとジルディアの創生が終わり、無事帰還したディセンダー。アドリビトムの面々は皆心からその帰還を祝った。
 各人理由は数あれど、船を去ったメンバーがいないのは喜ばしい事だ。それはやっと”ディセンダー”としての役目を終え、新しい世界に生きる”人”となった彼女にとって。



「そっかー、なら直接言ってみたらどうかな? 頭の中でばっかり考えても、どうしようも無い事だってあるよ。そんな時はぶつかっていけばいいんだよ!」
「やはり、そうですよね……。ありがとうございます、カノンノ。相談してよかった」
「ううん、今までずっと貴方は頑張ってきたんだもの。もっと欲張りになってもいいと思うよ」
「ありがとうございます。じゃあ、私。頑張ってきます」
「うん! 私も応援してるから!」

 来た時と大違いの勢いで、階段を下りていくディセンダー。
 余程悩んでいたのだろう、カノンノは力になれた事を誇りに思う。
だが――

「でも、結局何に悩んでたんだろう?」

 主語の怪しいディセンダーのお悩み相談は、相棒とも言えるカノンノですらイマイチよく分からなかった。しかし今までまず行動だったディセンダーがあれ程想い悩んでいるのだ。自分には想像もつかない大変な事なのだろう。根拠のない自信に、カノンノは人知れず頷いていた。
 その後押しが、この後どんな事態を引き起こすのかも知らず。



「という事で、私とお付き合いしてください。ルーク」
「ん? また追憶の坑道かよ。昨日行ったばっかじゃねーか」
「すみません、ちょっとあやふやな言い方でしたね。言い直させてください」
「なんだよ?」
「ルークの穴に突っ込んでひんひん鳴かせたいのでその尻貸してください」

ばちん!
 いでぇっ! 隣に居たガイがルークの耳を叩くように塞いだのは一瞬だった。
 ヒキガエルのような可哀想な悲鳴が上がるが、無視される。

「あ、この場合の穴っていうのはアナ……」
「やめろ! 今直ぐ黙ってくれ!! ルークに変な言葉を聞かせないでくれ!!」

 金切り声のガイが、ルークには絶対見せないだろう顔でがなり立てる。
 両耳を抑えられたままのルークは、嫌々と振りほどこうとするが、どうやっても外れそうにない。
 しかし世界樹からの世界の救い手・ディセンダーミアリヒは、何故ガイが怒っているのか理解できない、といった顔できょとんとしていた。

「分かりました、言い直します。ルークとセックスがしたいのでホテルで休憩しましょう部屋を取っています」
「なんだその混ざったテンプレ口説き文句は!」
「本音も少し混ぜると効果的だと聞きました」
「本音すぎて台無しになってるから!」
「そうなのですか……。じゃあ、えっと……スケベしようや」
「鳳凰天翔駆!!」

 ガイは人生初めて、ディセンダーとは言え女性に向かって渾身の力で秘奥義を問答無用で放った。ここが船の廊下である事など、記憶の端にも無かった。
 しかし腐ってもディセンダー。職業が盗賊だった事もあり華麗なバックステップで避ける。

「何をするんですか。酷いです」
「おいバカガイ! いきなり何してんだよ!!」
「すまん、ついカッとなって」

 余程力を込めたのだろう。由緒正しいチャットご自慢、火山雪山上空なんでもござれでも宇宙以外は大抵を耐えるバンエルティア号の廊下が焦げて一面真っ黒になっている。
 廊下で秘奥義を発動させる暴挙に、当然ながらその爆音を聞きつけて足音がやってきた。

「何やったんだこれ? チャットの雷が落ちるぜ」
「ユーリ。丁度いい所に来てくれました」

 ホールから現れたのは黒髪長身黒衣のユーリ・ローウェルだった。
 その姿を見てミアリヒが駆け寄る。

「ん? オレに何か用か」
「はい。やはりこういう事はきちんと言わなければいけないと聞いていますので」

 にこり。一番初め、生まれたばかりの頃は表情一つ作るのもぎこちなかったミアリヒだが、数々の経験と多くの仲間の助けを借り、幾分自然に出来るように成長していた。まだ感情豊かに、とは言えないがそれでもその一つ一つが宝石のように輝いているのは間違い。

「おお、なんだよご機嫌じゃねーか」
「ルークと別れてください」
「よし、天狼滅牙!」

 刀の連続音が焦げた廊下に響く。狭い空間に舞う剣筋が白金の様に煌めくも、それがミアリヒの肉に届くことはやはり無かった。

「ユーリ今のは狡い技ですね。私分かりますよ」
「お前は存在が狡いからこれくらいいいんだよ」

 予備動作の無い攻撃を簡単に躱された事でユーリの戦闘スイッチが入る。もちろん、ディセンダーによる前言の台詞が一番の原因ではあるが。
 普段余程の事が無ければ人間には向けられないユーリの殺気を感じ、ミアリヒもナイフを手に掛ける。

「そもそもユーリがルークと付き合っているというのがおかしいと思います。二人共喧嘩しかしていなかったのに、どうせユーリが誑かしたんでしょう。レイヴンが言ってましたよユーリは悪い大人だって」
「おっさん〆る。喧嘩もあのお坊ちゃんには立派なコミュニケーションなんだよ。それを理解してないからスルーされるんだ」
「私は世界の為にラザリスと姉妹喧嘩してたんですよ!!」
「おう、だから世界の事はディセンダーサマにお任せしてたろうが」
「私が地道にルークのレベルと好感度を上げていたのに……! 横取りなんてずるいです!!」
「自分の気持ちを告げないのが悪いんだろうが」
「その頃はまだ淡い蕾だったんだから仕方ないでしょう!」
「知るか! そもそもなんでオレらが付き合うのにあんたの許可がいるんだよ!」

 付き合っている、という言葉を聞いてガイが驚いたようにルークを見る。
 長年ルークの親友いや第二の親として付き従い、慈しんできた子から、そんな恋愛事を聞いたのは初めての事だったからだ。
 いやよりにもよって他人から聞かされる事になるとは。動揺の滲む目は勝手にルークを責めようとしてしまうが、向けた先のルーク自身の表情を見てより戸惑う。

「そ、その……。いつか言わなきゃって思ってたんだけどよ」
「ルークお前……」
「わりぃ、ガイ……。でも俺、し、真剣だから!!」

 ここ数年来見なくなって久しい、ルークの真摯な表情。
 親はなくとも子は育つ。そう突きつけられた様な気がして、ガイは目頭が熱くなった。

「お、大きくなったなぁルーク……!!」
「ちょ、なんで泣いてんだよガイ! おい!?」
「あんな小さな手だったルークが、恋だ愛だと……随分大人になったんだな……」
「どうだ聞いたかミアリヒ。心はもちろんだが、ルークの毛先頭から爪先まで、すでにオレの物なんだよ!!」
「ふぁっくゆー! ルークを物扱いするような人はふさわしくないです!!」
「言葉のアヤだ。てか実際マジで触れてない部分は無いから間違ってる訳じゃない」
「おいそれどういう意味だ婚前交渉とかゆゆゆ許してないぞルークはまだ一七なんだぞ!?」
「馬鹿ユーリ!! 恥ずかしい事言うな!!」

 とんだ爆弾発言に次ぐ爆弾に、ルークの顔は茹でたように真っ赤になる。
 それがまたユーリの言葉の真実味を深めているようでミアリヒは気に入らない。
 ミアリヒは握りしめた短剣の力を強め、拙い想いを吐露した。

「……私はルークが好きです。
アドリビトムの皆は優しくて誠実で本当に皆素敵な人達です。何も持たずに生まれた私を育ててくれたのはみんなです。大切です。大好きです。
でも、独占したい。そう思うのは、ルーク。貴方ただ一人だけなんです」
「ミアリヒ……」
「分かるぜ。お前、オレと同じだ」

 独り占めしたい相手を独り占めしている者からの同意に、ミアリヒは初めて胃の下が焼け付くような怒りを覚える。それはマグマよりも熱く、氷塊よりも冷たい感情だった。
 握りすぎて爪痕が痺れる短剣が、気がつけばユーリの眼前めがけて放たれていた。

キィン! 刀を振り払う動作で払い落とす。
 ユーリは憎らしい程余裕綽々で、スラリと柄から刀を抜いた。

「同じだっつってんだろ? オレもお前の立場ならそうしてる。だから、相手になってやる」
「ユーリ、称号ミリオンスレイヤーたる所以をその身に刻んであげます。……覚悟してください」
「過去オレの前でそんな口上述べた奴らが、二度オレの前に立った事は無いぜ」
「お前ら! 止めろよ馬鹿野郎!!」

 悲痛なルークの声を流し、ミアリヒが駆け出す。
 盗賊の武器である短剣は先程床に落としている。だが自棄糞で向かってくるディセンダーではない。ユーリは警戒するように柄を握り、どの体勢からでも迎え撃てるように体を揺らめかせた。
 ふ、とユーリの目線に丸い影が浮く。
 意識する前に体が避けた。右側の壁に熱と爆発音が炸裂する。一瞬意識が持っていかれるが、それを曲げて迫り来ていた蹴りをガードした。鞘を添えて受けたのが幸いし衝撃はほぼ感じない。鞘ごと勢いをつけて振り投げれば体重の軽いミアリヒでは紙くずの様に吹っ飛んでいった。
 狭い廊下では、叩きつけも無視できないダメージ元だ。即座に受け身で回避したミアリヒだが、着地地点の隙を無視してくれる相手ではない。
 三散華の拳が迫っていたのは視認したが、それを防ぐ術が無い。しかし彼女の口元に浮かぶは苦渋の呻きではなく、してやったり、の笑みだった。
 火炎瓶を投げていたと同時に予備のナイフを死角に隠し持っていたのだ。今それはユーリの腕と紙一重で交差するように投げられていた。
 上体を曲げて避けるユーリの舌打ちが遅れて聞こえてくる。
 ミアリヒはバク転で流れるように距離をとり、最初にはたき落とされた短剣を拾っていた。

「やるじゃねーか」
「そっちこそ、です」

 殺気を飛ばし合う見たことのない緊張感に、恐れを滲ませるルーク。
 ルークからすれば愛焦がれるユーリは大事だが、妹のような、姉のようなミアリヒの事ももちろん大事だった。
 思わぬ衝突、止められそうにない気迫に己の力の無さを嘆く。そんな中、焦げた廊下の先の扉が思いがけず開いた。

「貴様ら、さっきから部屋の前でうるせぇんだよ!!」
「アッシュ!!」

 既に二人の戦闘は始まっており、アッシュの怒声では止まらない。激しくも静かな剣劇を目に止め、近くで戸惑い怯える兄と使用人を訝しがる。

「あいつらは何やってやがるんだ! ……お前らも、何故止めん」
「止められるなら止めてるよ。無理そうだからアンジュ待ちさ」
「ア、ア、ア、アッシュぅうううう!!」
「お、おいどうした……。この馬鹿! ベソかいてんじゃねぇ屑が!!」

 涙が零れそうに潤むルークの姿を見て、意味が分からず動揺するアッシュ。
 幼少時以来の泣きそうな顔にいつものような暴言も引っ込み、駆け寄ってくるルークをぎこちなく受け止めた。
 その際一瞬二人の殺気がアッシュに向いたが、狼狽えている本人は気付かない。ガイは冷や汗を覚え、ススス、と後退った。

「止めたいのに、止められねぇんだ……! 俺どうしたら……」
「チッ! この馬鹿が……。お前は未来の王だろうが。こんな事で簡単に泣くんじゃねぇ。……仕方ないから俺が止めてやる」
「アッシュ……」
「頑張れよ〜アッシュー」

 一人呑気そうな声は気に入らないが、今のアッシュは気にしなかった。
 他の誰でもない兄が自分を頼った事に、妙に気分が高揚し興奮する。同調するかのように湧き上がる武者震いも力を与えるようだった。

「おいテメェら! 喧嘩なら外でしやがれ!!」
「うるせぇヘタレツンデレは引っ込んでろ!!」
「後でルークを娶りに挨拶に行くのでそれまで待っててください!!」
「ふっざけんなお前らあああああ絞牙鳴衝斬ッ!!」

 一秒と保たなかったアッシュが参戦した事で、廊下の内壁も遂に我慢の限界と言わんばかりに凹み、塗装も剥げて見るも無残な姿になっていく。
 アッシュのサンダーブレードが天井の電灯を巻き込んでスパークさせ、それに巻き込まれたかのように他の電気系統をもチラつかせた。心なしか揺れが激しくなってきているのも、気のせいではないだろう。

「あああああああなんでこんなことにぃいいい」
「ルーク、危険だから避難しよう!」

 三人の戦闘から庇うように抱きかかえるガイが手を引こうとするも、ルークは頑なに動こうとしない。

「俺のせいでこんな事になってんのに、逃げてられっかよ!」
「いや待てお前のせいじゃないからな!」
「ちゃんと付き合う時に言えばこんな事には……! いざとなれば俺が体を張ってでも止めなきゃ!」
「いや言ったら言ったで多分血の雨が降ってたと思うぞきっと」
「とにかく! 俺がやるんだ!!」
「待て! 死ぬ気かルーク!!」

 興奮するルークをなんとか引き止めるも、このままでは諦めそうもない。
 あの三人ならどれだけ興奮してもルークを傷つけることは絶対にありえないだろうが、万が一という事もある。それにどちらかと言えばこの後に訪れるであろう、アンジュ+チャット+大人組の説教の方が実質恐ろしい。
 そもそもこのライマ部屋は、廊下一つ隔ててアンジュの居るエントランスだ。未だ野次馬が現れないのは助かるが、それも時間の問題だろう。
 そうなるとどさくさに紛れて逃げることも難しくなる。せめてルークだけでも逃さなければならない。ガイは親心と健気が交じる心でそう考えた。

「ルークのおへそをぺろぺろしたんでしょう! したんですよね!? 私がしようと思っていたのに!! 絶対に許しませんから!!」
「するだろうが普通!! あとお前にはさせねー絶対にさせねー!!」
「貴様ら、な、何を言ってやがる!? かっ消してやるこのゴミ屑野郎ッ!!」
「なんです? どうせアッシュも弟面してルークとにゃんにゃんしていたんでしょう! 私知ってるんですよ!! 昔はお風呂もベッドも一緒だったって!! ああ羨ましい妬ましい!!」
「ほぉう? そりゃ初耳だな。詳しい話を聞こうじゃないか」
「ば、馬鹿を言え!! ガキの頃の話だろうが!!」
「今どもりましたよね? 実は今でもなんだかんだ言って一緒しているんでしょ! ナタリアからバッチリ聞いてるんですから!」
「ナタリアアアアアア!!」
「おいコラ腹ぁ括れよ!!」

 この狭い、遮蔽物の無い廊下で行われているトライアングル戦闘はとんでもない技量の応酬なのだが、各人から叫ばれる言葉の応酬はとんでもなく低レベルだった。
 余りにもルークの意思を無視した争いに、ガイはいい加減我慢できなくなっていた。
 ふと思いつき、手を打つ。

「…………ルーク、科学部屋に行ってヴァンを呼んできてくれるか? 今日はそこに居るはずだから」
「え? あ、そっか師匠なら止められるもんな! 分かった!!」

 ルークのヴァンに対する信頼は絶対だ。『何はなくともヴァン師匠は絶対』ルークの標語の一つでもある。
 いくらヴァンでもこの状態をなんとかする事は出来なさそうだが、ヴァンならできると欠片も疑う様子のないルークは慌てて廊下を駆けて行った。
 その後ろ姿を見送って、苛烈になっていく戦闘のとばっちりを受けない様に距離を取るガイ。

「よし。これでついでにジェイドも呼んで一纏めに始末してしまうか」


 破天荒な恋人もクーデレなディセンダーもツンデレ抉らせてる弟もいい歳こいて初恋の軍人も尊敬眩しい師匠も冗談じゃない。
 愛を奪い合って結局悲しませる、そんな奴らに可愛いルークを任せていられない。自分はルークが立派な大人に、果ては王になるまで見守り育てる義務があるのだから、障害になりそうな存在は排除しなければ。
 ルーク限定の父性愛に敵うもの無し。

 結局想われ人たるルークの願い虚しく、自称保護者の一人勝ちとなったのだった。





めでたくなしめでたくなし






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